顧客体験をスムーズにするフリクションレスとは?
フリクションレス、という言葉はあまり聞いたことがないかもしれません。顧客体験におけるフリクションをなくしていく、という意味での「フリクションレス」という考えかたについてこの記事では紹介していこうと思います。
この記事では
- フリクションレスとはどういう概念か
- 顧客体験におけるフリクションレスの重要性とは
- フリクションレスの代表例:キャッシュレス決済
- 決済以外のフリクションレスの事例
- フリクションレスのためのパーソナライズとは
などについて、特にデジタルチャネル上でのフリクションレスを中心に解説していきたいと思います。
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INDEX
- フリクションレスとは?
- フリクションレスの代表例:キャッシュレス決済
- 決済以外にフリクションレスにすべき箇所とは?
- なぜフリクションレスにすることが重要なのか?
- 「隠れ」フリクションを意識しよう
- フリクションはどうやって見つけるのか?
- フリクションレスな体験はどうやってつくるのか?
- まとめ
1. フリクションレスとは?
フリクションレスとは摩擦や抵抗がないということを意味する言葉ですが、マーケティング領域におけるフリクションレスとは顧客体験上の摩擦や抵抗がない、ということを意味して使います。
マーケジンの記事にて、オイシックスCOCO奥谷さんはフリクションレスとは、「消費者が、欲しい情報や求めている体験、コンテンツに何の障壁もなくアクセスできること」をさす、と説明されています。
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例えばECサイトでものを買うときに、返品やキャンセルをしたくなったらどうするんだろう、ということは誰しも気になる情報です。特に初めてそのサイトで購入する際には。こうした典型的な疑問は、たいていFAQページに行くとその答えが書いてあります。ただすべてのユーザーがFAQページに辿り着き、返品・キャンセルポリシーを読むかというとそんなことはありません。
気になりつつも「まあいいか」と無視して買うユーザーも一定いるかと思いますが、逆に疑問を解消できないので買うのをやめて離脱する、というユーザーもそれなりの割合でいることでしょう。
こうした情報への接触をスムーズに出来ると、「購入直前の不安」というフリクションを取り除くことができます。
このように、顧客体験の様々なプロセスにおいて、ユーザーの行動(≒コンバージョンに至ろうとする行動)の邪魔になっている要素を解消していくことでフリクションレスな顧客体験を作ることが出来ます。
顧客体験を考えよう!というトピックは昨今珍しいものではなくなりました。ただ実態としてそこで考え出される顧客体験は、ユーザーに適切なタイミングで商品をおすすめしよう、という前提から発想されがちでもあるのではないでしょうか。
筆者は顧客体験の改善を大きく
- ポジティブな体験の増幅
- ネガティブな体験の減少
に分類して考えるのですが、前者(ポジティブな体験の増幅)が前提となっている場合が少なくないと感じています。
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フリクションレスな顧客体験とは、後者に着目した発想です。ユーザーがやりたいと思っていることを極力邪魔しないようにスムーズに達成できるようにしてあげることも、ポジティブな体験を増幅することと同じくらい、場合によってはそれ以上に大切なことではないかと思います。
2.フリクションレスの代表例:キャッシュレス決済
フリクションレス、という言葉を調べていくと必ずでてくるのがキャッシュレス決済です。なるほど、財布を取り出し、現金を数え、レジで手渡し、店員が再度数え直し、場合によってお釣りも返す、ということになるとレジ前で大きな時間を取ることになります。
支払い中のお客さんからしても煩わしいですが、もし後ろに誰か並んでいたとすればなかなか順番が回ってこないことにもストレスを感じることでしょう。筆者は個人的に、とあるファーストフードチェーンにて、レジ対応を1秒短縮出来ると数億円の売上インパクトがある、という試算結果を聞いたこともあります。
スマフォを使ったQRコード決済やSuicaなど電子マネーによる決済、場合によってはクレジットカードもキャッシュレス決済の1種として扱われます。現金を取り扱う煩わしさを解放し、決済行動を可能な限りシンプルにしようとするものです。
3.決済以外にフリクションレスにすべき箇所とは?
キャッシュレス決済への移行は確かに代表的なフリクションレスな体験の実現です。
ただ、フリクションレスにしていくということはもちろん決済プロセスに限ったことでありません。ほかにも様々な場所でフリクションは発生しています。
例えば「探しているものが見つからない」ということもフリクションレスにすべき代表的な箇所の1つです。デジタルマーケティングの領域ですと、典型的にはこれはサイトのトップページで起きています。
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トップページは、多くのユーザーにとって最初に開くページになります。そうすると、どうしても幅広いユーザーの訪問目的に対応したコンテンツを用意することになります。新着情報を見たい人、ランキングを見たい人、サービス内容をまず理解したい人、なんとなく見に来た人、「この商品を買いたい」「このサービスを申し込みたい」という意図が明確な人、など様々です。
様々な意図に対応しようとすればするほど、用意するコンテンツの量は多くなります。つまり、そのうちの1つの意図持って訪れたユーザーにとってはまず自分の意図に合うコンテンツがどれかを探し出さないといけません。
結果として「探しているものが見つからない」というフリクションが起きやすくなり、離脱が生じやすくなるのです。
あるいはカートページやフォームページもフリクションレスにするべき箇所の1つです。カート・フォームまでたどり着いているなら、一定以上の関心を持っている状態だと考えられます。ただ、関心がより具体的になればなるほど「本当に買っても大丈夫かな、申し込んでも大丈夫かな」という不安が生じやすくもなるものです。
こうした不安に対してフリクションレスな体験を提供できないと、やはり離脱が生じてしまいます。
サービスを提供する立場にいると、普段から自分のサービスはよく眺めているため、かえってユーザーの(特に初めての)立場に立ちにくくなりがちです。皆さんからすれば当たり前に実施していることでもユーザーからすればつい気になったり実施されていないんじゃないかと心配になったりするものです。
顧客体験上の様々な場面でフリクションは生じているものだと考えて見るようにしてみましょう。
4.なぜフリクションレスにすることが重要なのか?
企業側の目線で考えると、フリクションが起きていると、ユーザーが離脱しやすくなってしまいます。ユーザーが離脱する理由を1つ1つ解消していくことで、離脱を防ぎ、結果としてコンバージョンまで到達するユーザーを増やすことが出来ます。
ユーザー側の目線で考えると、自分がやりたいことがスムーズに出来ないということはストレスになります。なんか使いにくいからもういいや、と思ってしまうと、次に来ることも考えにくくなります。
フリクションレスにすることは、ビジネス上メリットがあるだけでなく、ユーザーにとっても心地よい顧客体験となるので、双方に同時にメリットが有るのです。
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また、昨今では言うまでもなくデジタルチャネルの重要度が増してきています。
特にスマートフォン利用が主流になってきている現在、フリクションへの許容度はどんどん下がってきています。
これがお店であれば、(せっかく来たからなあ)という思いが働くので一度店内に入れば多少のフリクションがあってももう少しなんとかしようとユーザーも思いやすくなります。また店員さんもいますので、「あ、このお客さんなにかフリクションを感じているな」と感じれば声をかけてサポートするということも可能です。
ところがスマートフォン上ではボタン1つで離脱が出来ます。店員さんのサポートもありません。ちょっとしたフリクションが、ユーザーを永遠に失う結果になるということも珍しくはないのです。
セルフサービス前提で顧客体験を考えることになるデジタルチャネルにおいては、可能な限りフリクションレスであることが重要になるのです。
5.「隠れ」フリクションを意識しよう
冒頭でご紹介した奥谷さんによるフリクションの定義は「消費者が、欲しい情報や求めている体験、コンテンツに何の障壁もなくアクセスできること」でした。
この定義では、「消費者は自分にとって必要な情報・体験・コンテンツを自覚することが出来ている」という前提があります。自覚できているからこそ、それらをスムーズにアクセスできないことにフリクションを感じるわけですからこれは、言うまでもなく当然のことであると感じられると思います。
ところが、実はフリクションレスな顧客体験を考える上では、ユーザーが自覚できてない情報・体験・コンテンツにいかに気づいてもらうか、という観点も大切になってきます。
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例えば、スーツ販売のECサイトに就職活動のためのリクルートスーツを探しに来た学生がいたとしましょう。この学生は何を思ったか、大人っぽい落ち着きを出すためにはダブルのスーツが良いだろうと考えており、ダブルのスーツでいいのがないかとサイト内を探しまわり、良いのが見つかったので買うこととしました。この学生が後日「なんで誰も教えてくれなかったの!?」と思うことは明白です。
さすがにこれは極端な例・・・かもしれませんが、「安いから」というだけでネットで生命保険を申し込んでしまうユーザーが、後日「なんで誰も教えてくれなかったの?」と思うことがないと言えるでしょうか?
セルフサービスを前提とするということは、あらゆるデジタルチャネル上の意思決定において、ユーザーは自ら正しく情報を集めることが出来、自分にとって最善な判断をすることが出来る、という前提を置くということと事実上同義になりかねません。
経済学においてさえ、「人間とは合理的な判断をするものである」という前提が実は必ずしも正しくないということは、行動経済学・行動心理学の起こりを考えると明らかです。
本来は気づくべき情報に気づいていないユーザーは、自覚的にフリクションを感じることはありませんが、サービス提供側としては「隠れフリクション」に対してもフリクションレスを考えるほうがよいでしょう。
6.フリクションはどうやって見つけるのか?
実店舗ではお客さんがフリクションを感じているかどうか、よく観察することで一定識別することが可能です。店内でのお客さんの動きに迷いがありそうか、表情は、仕草はどうか、といったことからフリクションを感じていることが読み取れます。実際に気の利いた店員さんであれば自然にこうしたことを行っていることでしょう。
ところがデジタルチャネル上ではこのようにはいきません。データが取れるからと言って、アクセス解析ツールを見て離脱率や直帰率の高いページを見つけることは出来ますが、どのようなフリクションが離脱を生んだのかを見極めることはアクセス解析的なデータ分析からでは実は困難です。
もしヒートマップツールを使っていれば、離脱したページでどこまでユーザが見ているのか、離脱の多い箇所がどこかをより詳細に見ることが出来ます。
セッションリプレイ機能があるツールであれば、ユーザーのブラウザ上の操作行動を録画し、再生することが出来ます。離脱したページの操作動画を見ることでヒントが得られる場合もあるでしょう。ただしひとりひとりの動画を見ることになるので手間は一定かかることになります。
ユーザーヒアリングを行うという手もあります。昨今ではオンライン上でモニターを集めてオンライン上で画面を操作してもらい、同時にインタビューを行うことでより簡易にユーザーの声を聞くことが出来るサービスも提供され始めています。
ただこうしたツールやサービスを利用するのはコストがかかりますし、実際にフリクションが見つかるまでに時間もかかります。最も簡単なやり方は、ユーザーのつもりになってサイトを使ってみることです。自分自身ではやりにくいという場合もあるでしょうから、そのサイトを業務として使ったことがない同僚や友人、家族など周囲の人に使ってもらい、どこにフリクションを感じているかを観察するというのも意外に有効です。
是非一度ここからでもトライしてみてください。「え、こんなことをフリクションに感じているの?」という発見が必ずと言っていいほどあると思います。
海外の記事からの参照となりますがECサイトのフリクションとして下記のような例が挙げられています。プロセスごとに見てみましょう。
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Discovery(商品の発見)
- 連絡先情報の入力を何回も要求され、営業電話・メールをその後たくさん送られてしまう
- Webサイトのナビゲーションが複雑
- 価格が高い
- (ユーザーのと)違う通貨で価格が設定されてしまっている
- 画像が十分でない
Selection(商品の選択)
- ゲスト購入が出来ない、会員登録やソーシャルログインを強制されてしまう
- メールアドレス認証に手間がかかってしまう
- 欲しいサイズ・量・色・ブランドなどがない
- 保存・編集機能が用意されていない
- 商品レビュー、レコメンド、お客様の声、が用意されていない
Buying(購入フロー)
- 会員登録やパスワードリセットの周りのサポートが不十分
- 利用規約などが曖昧
- 購入ボタンが見つかりにくい
- セキュリティを示すロゴやサポートツールがない
- (ユーザーが望む)配送手段が用意されていない・配送コストが高い
Payment(支払い・決済)
- (ユーザーが望む)決済手段が用意されていない
- ロイヤリティプログラム、ギフトカード、返品の選択肢がない
- 価格が高い、大きい取引に対してのディスカウントがない
- 別の通貨で価格が設定されている
- 決済処理でエラーがでた
通貨の話は日本のECサイトではあまりフリクションにはなりませんし、ゲスト購入が出来なくてもやり方次第でフリクションレスに近づけることは出来ますので必ずしもこちらのすべてが当てはまるわけではありませんが、おおよそとしては対処すべきフリクションが挙げられています。
7.フリクションレスな体験はどうやってつくるのか?
キャッシュレスのように、新しいテクノロジーを取り入れることでフリクションレスな体験を作るという取組は、ワクワクしますし誰もがやってみたいと思うことだと思います。
ただ実際にはフリクションが様々な箇所で起きているという現実を踏まえると、新しいテクノロジーを取り入れることだけではなく、日々の地道な改善のプロセスの中でフリクションレスな体験にしていくということも合わせて考えていくべきでしょう。
実店舗であれば店員さんに任せたいところですが、デジタルチャネル上ではそうは行きません。フリクションが起きやすい箇所を発見し対処するということを意図的に行う必要があります。
デジタルチャネル上でフリクションレスな体験を作るためには、「いつ」「誰に」「どこで」「なにを」を柔軟に設計できることが必要となります。上述したフリクションの例でカートページ・フォームページを取り上げましたが、ここでフリクションレスな体験を作るためには
- 初回購入・申込者であること
- カート・フォームページに到達していること
- その先に進むことにためらいを感じていること
などから「このユーザーはフリクションを感じている」ことを識別することになります。
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もちろん初回購入者が多いECサイト、もしくは申し込みが一人1回のサイトであれば「初回」であることを識別する必要はそれほど高くはありませんので、自社の状況に応じてフリクションをどのように識別できるかは考えてみてください。
識別ができれば、次にどのようなコミュニケーションを取ることでフリクションレスに出来るかを考えます。購入・申込みの意向は一定高いものの不安を感じていることがフリクションなっている、という仮説であれば、不安を解消するためにはどんな材料を提供すればいいかを考えることになります。
最初からうまく解消できるとは限りませんので、何回か試行錯誤を繰り返して少しずつフリクションレスに出来る領域を広げていきましょう。
8.まとめ
本記事では顧客体験を考える上で重要な概念であるフリクションレスについて説明しました。フリクションレスとはキャッシュレス決済などの文脈で語られることが多い言葉です。ただ大掛かりな取組で一気にフリクションレスにするということだけではなく、地道な改善の積み重ねでフリクションレスにしていくことも同様に、時にはそれ以上に大切です。
特別なオファーや新商品、キャンペーンがなくてもフリクションレスにしていく取組は実施することが出来ます。言ってみればバケツの穴を塞ぐようなものです。ぜひ定期的に振り返ってみてください。
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