ジャムの実験をWebマーケティングで実践してみた

行動経済学

深田 浩嗣

ジャムの実験

「人を動かす」にはどうすればいいのか、なにか応用できる原理原則がないのか?人間の行動には一定の原理原則があります。それを学べる分野はいくつかあり、行動経済学はそうした分野の1つです。行動原理がわかると施策に応用ができ、マーケティング活動に活かせる学びを得られます。今回はジャムの実験を例に解説しています。

「人を動かす」行動経済学の使い方をご存知ですか?すぐに実践に活かしたいという方に向けて、ポイントをまとめた資料をご用意しました。

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「選択の科学」という本があります。著者のシーナ・アイエンガーはコロンビア大学の教授で、タイトル通り選択についての研究をしている方です。聞いたことがある方もいらっしゃると思うのですが、この本の中に「ジャムの実験」と呼ばれる人間の選択に関する実験についての記述があります。

ジャムの実験

それは選択肢の多さが人間の意思決定にどのような影響を及ぼすかを簡単な実験で説明しようとしたもので、スーパーを舞台にして

のどちらが売れるのかを調べてみるというものでした。

実験の結果は1)6種類を並べたときのほうがよく売れた、というものでした。シーナ・アイエンガーはこのジャムの実験から、選択肢が多すぎると人間は選択しようという意欲が減退してしまうということを主張しています。

さてこのジャムの実験、本当にそういう事が起きるのでしょうか?実験通り、スーパーという場面においては活用できそうですが、Webマーケティング領域でなにか応用性のある知見なのでしょうか?弊社Sprocketの事例を紐解き、Webマーケティング領域における実際性を考えてみたいと思います。

なお、弊社SprocketはWebサイト内のユーザー行動をリアルタイムにトラッキングしたデータを使い、サイト回遊中のユーザーにポップアップを配信する仕組みを提供している会社です。リアルタイムの行動トラッキングを店内において店員が顧客を観察する行動と位置づけ、ポップアップ配信を店員による声掛けと位置づけており、顧客にとって「うまく声かけて接客してくれた」と思ってもらえるような体験を作ることを生業としております。本記事はそうした取組のなかから得られた知見をもとに書いております旨ご了承ください。(このポップアップを配信する条件や内容などのことを総称して接客シナリオ、と呼んでいます)

敢えて少ない選択肢を提示してみた(1)

まずワコールさまの事例を御覧ください。こちらよく弊社Sprocketの成功事例としてご紹介させていただいているものなのですが、以下のような設計をしています。

画像:ワコール様スマホサイトのポップアップ画面キャプチャ

ワコールさま事例の設計

  • 商品一覧ページを見ているユーザーを対象に、
  • どのような切り口で商品を探しているかをポップアップを表示して尋ねる
  • 切り口の選択肢は4つを提示

商品一覧ページには非常に数多くの商品が並びます。1ページ内に数十点、ページ送りも含めると数百点の商品が選択肢として提示されることになります。ある程度の商品点数があるECサイトを訪問すると、一覧ページにズラっと商品が並ぶのを見たことがある方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。

グーグルなど検索エンジンで検索した結果も、何ページも出てくるとそれをまたいで見るのは面倒です。ECサイトの場合、画像が並んでいるだけという場合もあるので、表示されたたくさんの商品のうちどれが良いかを選ぶのは、より一層の苦労となります。

ここで実施した接客シナリオは、商品点数としての選択肢を絞ったわけではなく、商品の選び方の切り口(例:「シンプル&スタンダード」)として提示することで、選択の量的な負担だけでなく質的な負担を減らすことも同時に行っています。量的な負担とはまさにこのジャムの実験のことで、選択肢の数自体のことを意図しています。質的な負担とは、ワコールさん取り扱いの下着という商材の場合、選び方がそもそも色々な選び方があり得ます。デザイン性、着心地、サイズ、価格、などなど。こうした選択をどのような観点で行うべきかということも負担になるのではないかということを意図しています。

このように、質・量共に幅広く選択のしようがあるなかで「数十~数百点のなかから商品を1つ選べ」と言われるよりも「たくさんの商品の選び方として好みのデザインから絞るというやり方がある」「好みのデザインとしてはこの4つだとどうでしょう」と言われる方が質・量共に選択の負担が小さくなるのではないか、ということです。

実際この接客シナリオをスタートさせ、シナリオを配信する対象となるセグメントのユーザーグループをランダムに二分し、片方のグループに接客シナリオを配信、もう片方のグループには何も出さないというやり方でABテストを行いました。

結論から申しますと、シナリオを当てたグループのほうが購入率は25%向上するという成果が出ています。数百の選択肢に対して4つの選択肢ですから、ジャムの実験がより極端な形で行われたことになります。

敢えて少ない選択肢を提示してみた(2)

もう1つ、類似する事例があります。こちらオットージャパンさまの事例で、選択肢の多いページの代表たるトップページを対象にした接客シナリオです。

画像:オットージャパン様スマホサイトにおけるポップアップ画面キャプチャ。選択肢を段階を経て表示

ここでも施策内容は先程の例と同じで、実質的には3つの選択肢を提示することでユーザーにとって選びやすい状態を提供しています。商品詳細ページはたくさんの商品から1つを選ぶという点に戸惑いが生まれますが、トップページでの戸惑いはこれとはまた異なります。

通常、トップページにランディングするユーザーは非常に多様です。初めてのユーザーもいれば、リピーターのユーザーもいます。訪問の意図、探している内容も様々です。

ですので、それぞれのユーザーに対して当てはまる行き先を提示しなければいけないので、どうしてもトップページは選択肢が多くならざるを得ません。そこを敢えて選択肢を絞ることで、次に進むユーザーを増やすことが出来ます

マーケティング施策を実行する上で、ジャムの実験でわかるような行動原理を読み解くことは重要です。人の行動原理を紐解く「行動経済学」をマーケティングに活用するポイントをわかりやすくまとめた資料を公開中です。そちらもぜひご参照ください。

マーケティングで使える行動経済学

改善のポイント

ここで紹介した事例に限らず、この種類の接客シナリオを改善するポイントはいくつかあります。

1つ目は選択肢の数や提示する選択肢の内容。どのような提示の仕方がユーザーに選んでもらいやすいかは反応を見ながら試行錯誤を繰り返していきましょう。

もう1つの改善ポイントは、この選択肢を提示する(≒声をかける)タイミングです。ジャムの実験の場合は最初からスーパー内のジャムコーナーに並んでいるので、タイミングをどうこうすることは出来ないのですが、Webマーケティングにおいてポップアップを配信するという仕組みを使う場合は任意のタイミングでポップアップを配信することが出来ますので、そこも同時に検証することが出来ます。

タイミングを図るというのは選択の科学やジャムの実験というよりもお店の接客テクニックに近い話ですが、こちらも劣らず重要なチューニングポイントであることが経験上わかっています。考え方としては「多くの選択肢に戸惑い出した」タイミングを見計らうことでよりよい成果を出すことが出来ます。

論理的思考力と洞察力を養い、問題解決能力を伸ばすためには多角的な視点を持つことが重要です。Sprocketでは顧客心理を読み解くためのヒントをわかりやすくお届けするメディア「スプ論」も公開しています。知見を広げる情報発信を行っていますので、ぜひご覧ください。

スプ論はこちら

ジャムの実験はWebマーケティングでは有効な知見

これまで弊社Sprocketでは、商材の異なる様々なサイトでこれに類する接客シナリオを実践してきています。常に効果が出ることを約束できるわけではありませんが、勝率が高い接客シナリオであることがわかっており、弊社内でも定番のシナリオとして位置づけられています。

「選択肢が多すぎるとかえって選べない」という現象は、Webマーケティング領域においても発生していると言って良いと思います。ユーザー起点で考えたときに、選択肢が多すぎる状態となりやすいのはどこか、という視点を持っておくとこの知見を活かせる場面が見つけやすくなるでしょう。

また、ジャムの実験の知見を応用する上では、絞った選択肢をいつ提示すると良いのか、ということも合わせて考えることでより成果を上げやすくなります。皆さんのサイトの状況に合わせてぜひ考えてみてください。

最後に。Sprocketはこのように、「人を動かす」にはどうすればいいのか、なにか応用できる原理原則がないのか、ということを常に試行錯誤してきています。どのような実験をしているの・・・?ということをホワイトペーパー「成功する定番シナリオ[EC編]」にて解説しておりますので、よろしければコンタクト情報をご記入の上ダウンロードいただければ嬉しいです。

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