「デザイン思考」と「HCD」のフレームワークからデザインプロセスを学ぶ(社内勉強会)
2019/12/6に開催した社内勉強会の内容から一部を抜粋して紹介します。テーマは「デザイン思考とHCD」です。今回は会議室に3人、オンライン(リモート)で3人の合計6人が参加しました。私自身もオンラインでの発表となりました。
日本において、デザインが経営にかかわること
「デザイン思考」を語る前に、経済産業省・特許庁から2018年5月に発表された『「デザイン経営」宣言』に触れておきたいと思います。
デザインを活用した経営手法を「デザイン経営」と呼び、『「デザイン経営」宣言』はそれを推進することを提言したものです。中ではデザインの投資効果についても言及されています。ページ数は14ページとかなりコンパクトにまとまっていますので、気軽に目が通せる文書になっています。
デザインは造形物であるとか、経営においての付加価値でしかない、といった認識に対して公的に出されたこの文書は、当時ある程度の反響はあったものの、業務プロセスないしは事業アイディンティティそのものに影響するものであることや、理解するには一定のリテラシー(ないしはデザインの素養)が必要な文面になっており、少なくても私の周りでは取り入れられた企業は少ないように感じます。
⽇本は⼈⼝・労働⼒の減少局⾯を迎え、世界のメイン市場としての地位を失った。さらに、第四次産業⾰命により、あらゆる産業が新技術の荒波を受け、従来の常識や経験が通⽤しない⼤変⾰を迎えようとしている。そこで⽣き残るためには、顧客に真に必要とされる存在に⽣まれ変わらなければならない。そのような中、規模の⼤⼩を問わず、世界の有⼒企業が戦略の中⼼に据えているのがデザインである。⼀⽅、⽇本では経営者がデザインを有効な経営⼿段と認識しておらず、グローバル競争環境での弱みとなっている。
「デザイン経営」の必要条件は、以下の2点。
- 経営チームにデザイン責任者がいること
- 事業戦略構築の最上流からデザインが関与すること
- (2018年 経済産業省「デザイン経営宣言」より抜粋・引用)
「デザイン思考」と「HCD(Human Centerd Design)」について
「デザイン経営」の中でも出てくる「デザイン思考」については諸説あるものの、IDEOの標語が発端となり、その定義は下記の文面が参考にするとよさそうです。
人のニーズ、技術の可能性、およびビジネスの成功のための要件を統合するために
デザイナーのツールキットから得られるイノベーションへの人間中心のアプローチです。
- Tim Brown, CEO of IDEO https://designthinking.ideo.com/
この「人間中心のアプローチ」つまり「HCD(Human Centerd Design)」の内容については、国際標準化機構(日本産業規格)のISO9241-210(JIS-Z8530)に記載があります。
この規格は,コンピューターを利用したインタラクティブシステムのライフサイクルの初めから終わりにおける,人間中心設計の原則及び活動のための要求事項及び推奨事項について規定する。この規格は設計プロセスの管理者を対象とし,インタラクティブシステムのハードウェア及びソフトウェアの構成要素によって,人とシステムとのインタラクションを向上させる方法について取り扱う。
- JIS Z 8530:2019(ISO9241-210:2010)
次からは、本記事のタイトル通り、「デザイン思考」と「HCD」のモデルから、デザインプロセスを見ていきたいと思います。
Double Diamond
「デザイン思考」の代名詞としても用いられる、英国デザイン・カウンシルの問題発見・解決のフレームワークです。二つのダイヤモンドが連なったような形状があるのが特徴で、所版から15年程経ち、アップデートされました。
このデザインプロセスは線形ではなく繰り返し続けること、それを実施する文化や原則が視覚的にモデルに内包されています。
ダブルダイアモンドはデザインプロセスを明確かつ包括的かつ視覚的に記述したものである。
設計プロセスを強調するだけでなく、デザイナーと非デザイナーが採用する必要がある主要な原則と設計方法、および重要かつ長期にわたる前向きな変化を達成するために必要な理想的な職場文化も含まれています。
成功のための文化
- 取り組み方・関与の仕方:
アイデアを提供し、それを受け取っている人だけでなく、他のアイデアを持っているかもしれない他のパートナーとの関係性が必要です。つながりをつくり、関係を構築することは、アイデアを作成することと同じくらい重要です。
- リーダーシップ:
イノベーションを促進し、スキルと能力を構築し、実験と学習をしていくには、リーダーシップが必要です。また、強力なリーダーシップにより、プロジェクトはオープンで俊敏になり、途中で結果を示し、変更できるようになります。
デザイン原則
- 人間中心であること(Be People Centered):
サービスを利用している人々のニーズ、能力、および願望を理解することから始めます。
- 視覚的かつインクルーシブな表現をする(Communicate(Visually & Inclusively)):
問題やアイデアを、共有したり理解したりしやすくします
- 共同制作と共創(Collaborate & Co-Create):
他の人と協力し、他の人の行いからインスピレーションを得ます。
- 繰り返し、繰り返し、そして、繰り返し(Iterate,Iterate,Iterate):
繰り返すことは、エラーを早期に発見し、リスクを回避し、アイデアの信頼性を高めます
メソッドバンク
- 探索・調査する(Explore):
challenges, needs and opportunities
- 形づくる、方向づける(Shape):
prototypes, insights and visions
- 組み立てる(Build):
ideas, plans and expertise
プロセス
- 発見(Discover):
最初のダイヤモンドは、深刻な問題(problem)が何であるかを推測するだけではなく、それ自体を理解できるようにします。議論されるべき問題(issues)の影響を受ける人とは時間を使って話をします。
- 定義(Define):
発見のフェーズから収集された気づきは、さまざまな方法で取り組むべき課題(challenge)を定義するのに役立ちます。
- 開発(Develop):
2番目のダイヤモンドは、明確に定義された問題(problem)にさまざまな答えを出すことを奨励し、他の場所からインスピレーションを求め、さまざまな人と共同設計します。
- 提供(Deliver):
提供するときには、機能しないものを排除したり機能するものには改善が含まれるなど、さまざまなソリューションを小規模でテストします。
図の(青い)矢印が示すように、プロセスは線形ではありません。私たちがサポートする組織の多くは、起点に戻るべき根本的な問題についてより多くを学びます。最初のアイデアを作成してテストすることは、発見の一部になります。
そして、絶えず変化するデジタルの世界では、「完成」するアイデアはありません。製品やサービスがどのように機能しているかを常にフィードバックし、それらを繰り返し改善しています。
Design Thinking Process Diagram
d.schoolが提唱する『Design Thinking Process Diagram』も「デザイン思考」の代名詞のモデルです。私は5Stageとしてのプロセスと思っていたのですが、d.schoolのサイトを見ると6Stageにアップデートされて(?)いたようでしたので、こちらを参考に見ていきたいと思います。
このモデルの特徴は、『共感』から問題を定義し、改善については繰り返し行うというプロセスです。先ほどのダブルダイアモンドの図との共通項も多いかと思います。
- 共感する:
インタビュー
感情を明らかにする
ストーリーを探す
- 定義する:
人間中心の問題点を再構築して作成する
意味のある驚きと不安を特定する
洞察を得る
- 考える
抜本的なアイデアをブレストする
他の人のアイデアにを礎にする
判断は一時停止する
- プロトタイプを作る
低解像度のオブジェクトを作って、体験する
コンテキストと特徴を理解するためのロールプレイ
考察や学習のためにすばやく作る
- テストする
ソリューションの改善や、データ収集のために、顧客でテストする
より深い共感を得る
失敗を受け入れる
- 評価する
プロジェクト作業を批判的に評価するためのガイドライン
率直にフィードバック
フィードバックまとめ
- ※必ずしも線形ではなく、必要に応じて適用すること https://dschool.stanford.edu/executive-education/dbootcampより内容抜粋、試訳
JIS Z 8530:2019(ISO9241-210:2010)
人間中心設計を適用する根拠や原則、また計画やその具体的手法と持続可能性について記載されています。特にプロセスについては下記のように記載されています。
ISO9241-210:2019が出ているものの、現時点でJIS化されていないため、ISO9241-210:2010を元にしたJIS Z 8530:2019で見ていきます。
システム,製品又はサービスの開発の必要性が特定され,人間中心設計の開発を行うことを決定した時点で全てのインタラクティブシステムの設計において,次の四つのつながりのある人間中心設計活動を行わなければならない。
- 利用状況の把握及び明示
- ユーザー要求事項の明示
- 設計案の作成
- 設計の評価
- JIS Z 8530:2019(ISO9241-210:2010)
その中でもHCDで代表的なモデルが、人間中心設計活動の相互依存性について記載された次の図です。
図1は,人間中心設計活動の相互依存性を示している。これは,厳密な線形プロセスを意味するものではなく,人間中心設計の各活動には他の活動からの成果物を使用することを示している。
- JIS Z 8530:2019(ISO9241-210:2010)
この活動、つまりデザインプロセスは、初期時点で問題点や解決策がわかっていることはなく、プロセスの途中で判明していくことであるということが言及されています。
実際にユーザーからのフィードバックがあって、初めて気づくことは多いので、この点についてはかなり納得感があります。
- 多くの場合,多数のユーザーグループ及び他の利害関係者のニーズを考慮する必要がある。
- 利用状況はユーザーグループごと,異なるタスクごとに多様であり異なることがある。
- プロジェクトの初期には,収集できる要求事項が網羅されていない。
- 幾つかの要求事項は,解決策が提案されて初めて明らかになる。
- ユーザー要求事項は多様であり,要求事項間及び他の利害関係者のものとは相反することがある。
- 初期の設計案がユーザーニーズを全て満たしていることはめったにない。
- システムの各部分を保証しても,統合的に全体が考慮されていることを保証することは困難である。
初期の設計の簡易なプロトタイプ及びモックアップの評価は,設計コンセプトに対する初期のフィードバックを得るのに加えてユーザーニーズを深く理解する助けになる。
- JIS Z 8530:2019(ISO9241-210:2010)
代表的な3つのデザインプロセスモデルから
「デザイン思考」も「HCD」も、細かい定義や内容を除けば、
- 人(利用者)を中心にして
- 繰り返し改善を続ける
というところは共通でまとまってきます。
一度やったから終わり、というものではなく、この『繰り返し人(利用者)からのフィードバックを得て、発見し、改善し続ける姿勢』こそが、デザインプロセスモデルから学ぶべきところであり、真髄であると思います。
さいごに
この勉強会の後に残ったメンバーで、デザイナーとエンジニアが協力してデザインに取り組むにはどうすればよいか、勉強会の内容からより発展したディスカッションが自然に生まれていたと聞きました。今後も引き続き勉強会を行うことで、社内のデザインへの意識向上や業務改善に繋がればいいなと思っています。
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