SprocketはなぜOEMから自社開発に踏み出したのか?海外ベンダーとの契約と交渉はここに注意せよ!

Sprocketについて

イメージ:いろいろな要素が組み合わさって一つの企業を作っているイメージイラスト

現在Sprocketは、完全自社開発プロダクトとして提供しています。以前は、アメリカのBadgevill社のプロダクトをOEMとして提供していました。今回、Badgeville社(以下BV社)との3年に渡る提携の後、契約を打ち切り、自社開発に踏み切った背景について赤裸々に語ることにします。

これから、海外ベンダーの製品を日本市場に持ち込んで販売を計画されている企業(特にベンチャー企業)などにとって、海外ベンダーとの契約やサポート、コミュニケーション、そして個人としての付き合い方を考える上での参考になればという思いから、記事にすることにしました。

出会いは2010年、プロダクトのセンス、成長スピードに圧倒される


BV社と最初に出会ったのは2010年のサンフランシスコ、彼らがTechcrunchのイベントで賞を取った時のことです。TechcrunchはTechcrunch Disruptというスタートアップコンテストを定期的に開催していますが、 BV社がそこに出展していたのです。

当時、ボクはまだ「ゲーミフィケーション(gamification)」という言葉を知らなかったのですが、その出張時に何人かの人から「ゲーミフィケーション」という言葉を聞きました。BV社はそのアイデアを形にしているということ、プラットフォームとしてもおもしろかったことから興味を持ちました。

で、彼らに声をかけ、滞在中にオフィスを訪れてデモを見せてもらったりしました。当時は150万ドルの出資を受けた状況で、プロダクトの完成度もまだそこまで高くはありませんでした。

ですから、まだその時点では組むという動きにはならなかったのですが、その後、2011年に会った時にはかなりの成長を見せており、また1500万ドルの出資を受けたということもあって、急速に事業が拡大していました。

この時にプロダクト・会社の成長スピードの凄まじさを実感し、こんな調子でよくなっていったらかなわないと思いました。当時、僕らも自力で投資できる道筋もありませんでした。BV社も1500万ドルのすべてをプロダクト開発にあてるわけではないでしょうが、半分だとしても750万ドル。僕らが投資できてもせいぜいその10%もいかないだろうということで、これはもう組んだほうがいいだろうという判断をしました。

最初はリセラー契約でスタート、後にOEM契約にして自社ブランドとして展開


最初の契約はリセラー契約で、彼らの定価に対してこちらが卸値いくら支払うという内容でした。当時のうちのエンジニアは「これだったら自分たちで作ったほうがいいのではないか」という声もあがっていました。

確かに、プロダクトとしては細かいところで詰めが甘い部分があり、ドキュメントや管理画面が英語、BV社側の窓口ももちろん英語ということでなかなか進めづらかった面はありました。また、語学だけの問題ではなくコミュニケーションの文化の違いで話が噛み合わないところはすごくありました。

リセラー契約をしている2012年ごろ、BV社はさらに2500万ドルの出資を受け、導入社数もどんどん増えていき、機能もかなり充実してきました。

この辺りでリセラー契約からOEM契約に切り替えました。OEMを選択したのは、日本国内では自分たちのブランドである「ゆめみ」として提供していきたかったことが大きいです。将来的には事業がうまく行けばいずれは自社開発に踏み切るだろうということは念頭にあったため、BVブランドで行くのはやめておこうという判断でした。

OEM契約にあたっての契約書のチェック


BV社側も契約のバリエーションは多くはなかったようで、OEMの案はBV社側から出てきたのですが、特にもめることなく合意に至ったと記憶しています。

周囲から、「アメリカは契約文化なのでかなり文面をしっかり押さえた方がいい」というアドバイスを受けていたので、米国の弁護士資格をとっている弁護士さんに相談し(1時間5万円!)契約書の内容を確認してもらいました。契約としては、そこまでむちゃくちゃな内容ではなく、どちらかというと普通の日本の商慣習に照らしてもそこまで違和感のない内容として提示されていました。

この時に気付いたのは、「類似するプロダクトを自分たちでは作らない」といった内容は契約書には書かれていなかったことでした。後にわかるのですが、類似プロダクトによるサービス展開はシリコンバレーでは日常茶飯事で起こっているので契約書には書かないようです。実際、BV社を退職した従業員メンバーが類似するプロダクトを作っていることもありました。

損害賠償については基本的に「無償利用期間の付与」という形で担保していました。つまり、BV社の責任によって損害が発生した場合は、プロダクトの無償利用期間として補償するということです。この点は後々振り返ってみると、もっと交渉しておくべき点だったと痛切に感じます。

こうして、まずOEM式の契約を結び、国内での販売をすることになりました。

OEM契約のリスク。仕入れボリュームの罠


さて、ここで「リセラー契約」と「OEM契約」のメリット、デメリットについて整理しておきましょう。

リセラー契約は、日本で1本売れたら、BV社にマージンを支払うというタイプの契約です。売れたら支払い金額が発生するので、リスクはそれほどない代わりに利益はそれほど大きくなく、なによりこちらで価格コントロールが基本的にできないというデメリットがあります。

OEM契約については、一定の量をバルクで仕入れることによりボリュームディスカウントがある契約です。こちらは一括で仕入れる形になるので、日本での販売価格をそのボリュームの範囲の中で自由に決められるという違いがありました。

前述の通り、最終的にOEMを選択したわけですが、今から振り返ると一括で仕入れた部分は当然「在庫」になります。日本国内での販売が進まなければ、在庫を抱えることになり、一気に収益が悪化します。このリスクをもっと踏まえたボリュームで仕入れるべきだったなと思います。

ただ一方で、OEM契約だと当然先方から見ても、契約金額は通常の1本あたりの金額よりも大きくなるわけで、こちらに対しての対応はリセラー契約の頃と比べて明らかに良くなりました。言うことを聞いてくれるようになりましたし、優先して対応してくれているなという印象は受けました。

BV社にとっても「濃い」パートナーだったゆめみ


これは、後になってわかったことですが、当時の僕らとBV社の関係は、彼らからみても踏み込んだ関係だったようです。日本の感覚ではわかりにくいかもしれませんが、BV社の創業者にとっては「初期の頃から取引をしてくれた」という点が高い評価につながっていたようです。

僕らだとスタートアップの初期段階に取引してくれたお客さんにはある種の恩を感じたりするわけですが、本質的にはそれと似た話だと思います。ただ文化の違いもあって、「恩」というよりは「初期にリスクテイクしたことに対するリスペクト」という感じで表れているように思いました。よくいう、チャレンジャーが評価されるみたいなことを地で感じた部分があります。

海外の開発チームとのやりとりの困難さに直面


さて。
こういう経緯でより濃い関係としてBV社との契約が進んでいくようになりました。この頃からBV社側の現場メンバーとゆめみ側の現場メンバーとのやりとりの機会も増えてくるようになり、いろいろコミュニケーションの問題も顕在化するようになってきます。

やりとりの種類はいくつかあって、

  1. 新規案件の納品対応
  2. 先方メンテナンスの時期・内容の事前理解
  3. 障害や不具合の対応依頼及び進捗状況確認
  4. 分析のためのログデータ吐き出し依頼
  5. ソフトウェアアップデートの内容共有
  6. 先方ノウハウの共有

概ねこんな種類だったかと思います。

この中で言うと「障害や不具合の対応依頼及び進捗状況確認」や「分析のためのログデータ吐き出し依頼」がかなり揉めることの多い内容で、なかなかこちらの感覚と向こうの感覚が合わない。

正直最後まで合わなかった、というか、根本的に違う考え方なんだなと思います。

障害や不具合の正式な報告は一切なし!


例えば障害や不具合対応が発生した場合、日本ではクライアントに対して「障害報告書」を出してちゃんと説明して納得して締めるという手続きがあります。ある意味ベンダーとしてはこれはやって当然みたいな感じがあるようにも思うのですが、ここは全く当てはまらなかったです。

障害や不具合についての正式な報告は結局一度も上がってきたことはありませんでした。一応の説明は、メールやSkypeなどのコミュニケーション上でやりとりはされるものの、「これが公式回答です」みたいな感じではないんですよね。やりとりの流れの中で終了、という感じでした。

公式とされている障害状況についてのWebのアラートの機能がありましたが、そこもリアルタイムに反映されるというよりは手動運用で、かつちゃんと同期されていないのであまり信頼できない感じ。

これはBV社がそうなのか、うちがナメられているのか、全般的アメリカの会社はそんな感じなのかはわからないのですが、「スタートアップだからそこは大目に見てね」みたいなニュアンスはありました。Webのアラートのページは、我々だけでなく他の顧客も見ているはずです。なのに、そこがちゃんと運用されていないということは、全般的になぁなぁなのかと思います。

しかし、我々としてはBV社からの公式回答がないと、自分たちのお客さんにちゃんと説明ができないので、そこは最後まで苦労しました。

障害対応についての不満を付け加えると、修正の対応についても、修正方法をきちんと教えてくれないので、根本的に直っているのか当座の対応で済ませているのか、そのあたりが非常に掴みづらかったです。また窓口が誰かによってもかなりレスポンスのクオリティが変わります。名指しで担当変更を依頼するなどは遠慮なくやったほうがいいなと気づいてからは、そうするようにしていました。

時差もあるので、日本の平日がアメリカの休日だったり(特にこちらの月曜など)、祝日が入ったり(11月下旬のサンクスギビング、12月のクリスマスあたりの大型連休)といったときにどう捕まえて対応してもらうかというのも苦労した点です。

ですから、これから取引をされる方は、担当者や上司のケータイの連絡先は絶対に確保しておいたほうがいいです。あとは何よりCEOとのホットラインを作っておくこと。なんだかんだでここは一番効果的な気がします。アメリカ人は休暇は休暇ではっきりしている、などとは言いますが、そこはさすがにベンチャーらしく、土日・祝日・深夜対応でも連絡がつけばやってくれていました。

さて、BV社との出会いから契約、取引の開始までをまとめました。次回は、コミュニケーション文化の問題について取り上げます。

続きはこちら
アメリカ企業との交渉に求められるのは「Creativity」。相手を動かすためのコミュニケーション

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