アメリカ企業との交渉に求められるのは「Creativity」。相手を動かすためのコミュニケーション
Badgevill社(以下BV社)との3年間に渡るOEM契約を終了し、自社開発に踏み切ったSprocket。これから海外のプロダクトを国内で販売しようとしている方だけでなく、海外企業との付き合い方を考える上で参考になればという思いから、どうしてこの決断にいたったのかをまとめています。
前回の記事はこちら。
SprocketはなぜOEMから自社開発に踏み出したのか?海外ベンダーとの契約と交渉はここに注意せよ!
今回は、コミュニケーションの問題、それをどう解決していったかを振り返ります。BV社とのつきあいを通して、日本のコミュニケーションの暗黙知を認識することになりましたし、それぞれのコミュニケーションのメリット、デメリットもわかるようになりました。
言葉以上の壁となるのはコミュニケーションの文化の壁
日本側の担当者とBV社の担当者との現場同士でズレがあったのは「リクエスト」の出し方でした。
日本人同士の場合、相手に対してダイレクトにリクエストを出すというスタイルのコミュニケーションは基本的に取りません。僕らは普段これを意識していないのですが、ここの違いは実はかなり大きいです。英語に正しく翻訳できていても、通じないんですね。
例えばどういうことかというと、
顧客:あれ、ここおかしくない?どうなってるの?
ベンダー:あ、ほんとだ、おかしいですね!すぐ確認してご連絡します、すいません!
というやりとりに違和感を感じる日本人はあまりいないと思います。このやりとりでお互いの意思疎通はうまくいきます。BV社との関係では、僕らが客の立場、BV社がベンダーの立場ですが、これを英語でやるとどうなるか。
顧客:I think you have a problem here. What's going on?
直訳するとこんな感じになりますし、僕らも最初こういう風に言っていました。そうするとどういう回答が返ってくるかというと、
ベンダー:I don't think we have a problem there.
あるいは
ベンダー: I think this is a small problem.
といった反応が返ってきます。もちろん、表現は多少は異なりますが、大方こんな感じです。
何が言いたいかというと、「どういうことなんだ」と聞くと「こういうことじゃないか」と返ってくるわけです。つまり向こうの行動には結びつかないということなんですね。
日本のコミュニケーションは「言わなくてもわかる」
修正をしてもらうならはっきりリクエストとして出さないといけないのですが、日本人の場合は「ここがおかしくない?」という言葉の中に、暗に「おかしいから直してくれ」という意味が込められています。受け手(この場合はベンダー)が日本人だとその暗黙の意図を汲み取って行動することができるため、意思疎通に齟齬は生じません。
ただ、これが通用するのは、僕の少ない経験からではありますが、おそらく日本人同士だけです。そもそも僕らはリクエストをしていることあまり意識していないと思います。こういったら当然相手がそれを汲み取って動くことが期待されている、ということがあまりにもあたりまえだからです。
要求と理由をはっきり伝えて、落とし所を探る
でもこの当たり前は「言葉の壁以上の壁」の前にあっさりと崩れ落ちます。英訳として正しくても意思疎通としては正しくないのです。
ですので、ここは
顧客:You have a problem here and I'd like you to fix this until tomorrow morning because otherwise our customers get very angry and some of them will surely leave us.
などと言う必要があります。 そこまで言わないとわからないのか、という感覚が日本人的にはあるわけですが、どうやらそこまで言わないとわからないようです。
そこまで言ってもわかってもらえないこともあります。例えば「明日の朝はちょっと無理だからあさっての朝にしてくれ」などの回答になって返ってきます。あるいは「いやこの問題でお客さんが怒るというのは理解できない。なんでそうなるんだ?」などと返ってくることもあります。
リクエストをする際には、そのリクエストが合理的であることを理由付ける必要があるということ、そこが合意できたら次に期日などの調整(交渉)をクリアする必要があるという感じです。
このやりとりは、慣れないと結構ストレスです。なんせ毎回この調子です。日本人というのはなんて物分りの良い人達なんだろう!と思います。
顧客が細かく指摘しないと動かない
かつ、BV社の対応からは「ベンダーは顧客の言うことをまずは基本的に聞くべき」という感覚もあまり感じられません。海外ではベンダーと顧客が対等だというような話はよく聞きますが、客の側も説明をしっかりしないといけないようです。
「とりあえず客なんだから言うこと聞けよ」みたいなスタンスはまったく通用しない。不具合の指摘でも、どこでどのように不具合が起きている、ということもかなり具体的に指摘しないとなかなか伝わらないです。
日本だと顧客が「いやそれはベンダーが考えることだろう」と言うケースもありそうですが、そうすると優先度が下げられ、結果対応してもらえないということになります。動いてもらいたければ極力具体的に指摘する必要があるのだなと思いました。
バグの修正をこちらが肩代わりしているかのような感覚になることもあるわけなのですが、この辺向こうの連中同士だとどういうやりとりになっているのかはぜひ一度学ばなければいけないなと思っています。(知っている人がいればぜひ教えて下さい)
契約にも“creativity” が重要!
さて、そんなこんなで1年ほど経ち、次の契約更新のタイミングとなりました。この時、バイスプレジデントでビジネスデベロッパーの担当者が新メンバーに入り、BV社の契約担当窓口となりました。
この人物、実はその後も長い付き合いになっているのですが、かなり積極的に動いてくれました。日本で仕事をしていたこともあり奥さんも日本人で、こちらの事情をよく理解してくれています。
この時の契約更新で、本格的なOEM契約を提案してきたのは彼からでした。こちらの事業の計画に合わせてボリュームをコントロールするような形、イレギュラーな顧客に対応できるような柔軟性の確保など、こちらもある程度やりとりのコツを掴んできたこともあって色々リクエストを投げていたのですが、彼がCEOに掛けあったりなどして折衝できる状況を作ってくれました。
途中、僕の方も何度か「このリクエストは通らないかもなあ、ただでもこれ呑んでもらわないと契約する意味が無いなあ」という局面も何度かあったのですが、この彼が言うところのcrazy ideaあるいはcreativityでお互い乗り切ったという感じです(契約条件でcreativityという言葉を使うのは面白いなと思いました)。
ダイレクトなリクエストに「断りにくい」は存在しない
新しい担当者との出会いは我々にとっても非常に貴重でした。現場のやりとりだけだとどちらかというとネガティブな印象に傾きがちだったのですが、ちゃんと動いてくれる・考えてくれる人もいるということがわかりました。BV社の場合はスタートアップだからというのもあると思いますが、会社としての姿勢というよりは人による部分のほうが随分大きいなと思います。
また、「リクエストをきちんと伝える」ことの重要性も貴重な学びでした。ここの感覚も日本人同士のやりとりとは随分違うなと感じる部分です。相手に物事をダイレクトに要求するという行為は僕らの場合はちょっとやりにくいなとどうしても感じる部分があります。
厚かましいというかキレイじゃないというか、なんとか汲み取ってくれることを期待するみたいなところがあると思います。ただ前述したように、遠回しな言い方だと通用しないので、ダイレクトに言うしか無い。
ただ言ってみると言ってみたで、先方としてはリクエストを断ることに対して、特に精神的なハードルがないということもわかりました。
これも日本的なことへの大きな気づきだったのですが、僕らはリクエストを受けるとそもそも「断りにくい」と感じるんですね。だから簡単にリクエストもしにくいと感じる。
北米の人たちは、断られるか受け入れられるかは相手の都合次第、それを事前に予想(あるいは気遣って)してリクエスト内容を変えたりするということはしないんですね。
こちらの都合をまずぶつけてみて、それに対して相手が自分の都合を返す。次に、お互いに合理的と思える地点に着地できるよう、お互いが自分の都合を相手に合理的に理解してもらえるよう説明しながら協議する、というようなやりとりになります。
お互いの条件をぶつけて見つける着地点
書き出してみるといかにも当たり前なのですが、日本人同士の話し合いだとなかなかこうはいかない。
もちろんこういくケースはあるのですが、その前に一定の関係性を作ってから、というようなことになりがちです。連中はこの「関係性作り」のプロセスをスキップして、いきなりこのプロトコルから入るようです。
はっきりいって慣れてしまうととても合理的ですし、ビジネスコミュニケーションとしては非常に楽です。なにせ相手に余計な気遣いをする必要がなく、とにかくまずはこちらの都合をぶつければいいのですから。こちらの都合の合理性をいかに説明するか、という方に重点を置く感じです。
こういう話し方になると、お互いに何が譲れて何が譲れないのかも交渉上とても明確になります。変に隠したりとかもあまりないので「それならできる」「それならできない」というのを出し合った上で協議していきます。
慣れてくると先ほどのcreativityというのもなんとなくわかるようになってきました。相手の都合と自分の都合をどう折り合わせるのかという点で、いろいろな角度でなぜその都合になっているのかということをヒアリングしたり説明したり、お互いにアイデアを出し合って着地点を探すことになりますので、確かにある種の創造性が必要になってくる感じがします。
個人的にはこういうオープンさや合理性は好きな方ですので、日本人同士のやりとりになるとまどろっこしいなと思う部分も出てくるようになりました。気遣い前提のコミュニケーションは奥ゆかしくていいなと思う面もあるのですが、ことビジネスコミュニケーションで考えるとスピードが出ません。1回でいい打ち合せが2回、3回になります。
このへんは文化的な差なので、お互いが共通のコミュニケーションプロトコルを持っていないと成立しませんし、要求できることでもないので仕方がありません。
さて、そんなこんなでOEM契約の巻き直しを無事終えることが出来ました。と、安心したのもつかの間、BV社の社内に大きな変化が訪れようとしていました。次々と人材が流出、そして創業CEOまでが会社を去っていくのです。
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ビジョンをプロダクトに落とすパワー。シリコンバレーのスタートアップから得られた知見
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