施策の効果を最大化するための 消費者の行動心理をマーケティングに活用する方法
人間が行動をするときにどのような心理に基づいているかを紐解く行動心理学。その原理原則を正しく活用すれば、商品やサービスの魅力を最大限に訴求したり、顧客を動かすことが可能となります。この資料では、マーケティングに活用できる行動心理学についてわかりやすく解説します。
「ゲーミフィケーション」は、顧客を引きつけビジネスを成長させる鍵として注目されています。しかし単にゲーム要素を付け加えるだけでは、成功は実現しません。 本記事では、ゲーミフィケーションの基礎知識から、その成功の核となる「本質的な人間理解」に基づいた設計思想、具体的な実践手法、そして国内企業の最新成功事例までを網羅的に解説します。
「人を動かす」心理学の使い方をご存知ですか?すぐに実践に活かしたいという方に向けて、ポイントをまとめた資料をご用意しました。
Sprocketの代表である深田浩嗣は、著書『ゲームにすればうまくいく』の中で、ゲーミフィケーションを「ゲームの要素を、ゲーム以外の領域で活用していくこと」と定義しています。より厳密には、「利用者を動機付けするためにゲームの要素をゲーム以外の領域で使うこと」になります。
ゲーミフィケーションの成功の鍵は、ゲームの要素が本来のサービスの面白みや、ユーザーの利用目的と正しくつながっているかどうかにあります。価値の提供と実感をゲーム要素で加速することが、ゲーミフィケーションの本質的な考え方です。
ゲーミフィケーションという言葉は、2011年にガートナーがレポートで定義しました。ガートナーは「ゲームのメカニズムを非ゲーム的な分野に応用し、ユーザーのモチベーションを高め行動に影響を及ぼす幅広いトレンド」と説明しています。
この考え方の歴史は1970年代にさかのぼります。当時からゲームデザインの原理や理論の研究が始まり、ポイントやスタンプカード、報酬プログラムが購入意欲向上のために活用されてきました。
『令和5年度地域デジタル人材育成・確保推進事業(ゲーミフィケーションを活用した人材育成等に関する調査事業)』に関する報告書によれば、ゲームの技術・開発体系を重視する流れと、人間の心理・行動の本質的理解を重視する流れから、メディアとしてのゲームを課題解決に導入するシリアスゲームにつながり、さらに要素単位での導入に着目したのがゲーミフィケーションであるとされています。
現在、世界のゲーミフィケーション市場は急速に拡大しており、『Gamification Global Market Report 2025』によると、2029年には約736億ドル規模の産業になると予測されています。
現代社会は、効率性や合理性だけでは解決できない複雑な課題に満ちています。特に、VUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)と呼ばれる高度な不確実性の時代においては、未来を予測し、適切な対策を講じる能力が企業や個人に求められています。このような状況において、ゲーミフィケーションは、単に「使いやすい」という機能的な価値だけでなく、「やりたくなる」という本質的な人間の欲求に働きかけることで、課題解決に貢献します。
ゲーミフィケーションは、ユーザーエンゲージメントの向上、行動変容の促進、学習体験の強化など、多様な目的を達成する力を持ちます。これは、機能や価格、利便性だけでは差別化が難しい現代において、より本質的な人間の欲求に着目した価値創造を促すものです。物事を多角的に考える視点を提供し、VUCA時代を生き抜くための新しいスキルや視点を得ることを可能にします。
しかし、これほど強力なゲーミフィケーションも、その導入は単にポイントやバッジといったゲーム要素を安易に取り入れるだけでは成功しません。表層的なテクニックに頼るアプローチは、かえってユーザーの不信感を招き、本来の目的を達成できない危険性すらあります。その力を真に引き出すためには、どのような視点が必要かを考える必要があります。
この点について、伊藤真人氏は『ゲームフルデザイン』の中で、「誰もがやりたくなってしまうゲームをはじめとするエンタテインメントの力を活用していくためには、方法論に飛びつくのではなく、本質的な人間理解を深めた上で、最適な手法を活用していく、というアプローチが重要」と述べています。
成功の鍵は手法そのものではなく、その根底にある「本質的な人間理解」にあります。なぜ人はゲームに夢中になるのか、何が「やりたい」という自発的な動機を生み出すのか。この問いを深く探求することによってはじめて、ゲームが持つ、人間の本能的な欲求を満たす力が明らかになります。そして、だからこそ人をより強く引きつけ、「やりたくなる」を喚起することができるのです。
ゲームの要素をビジネスに応用するゲーミフィケーションを効果的に活用するには、単に表面的なテクニックを取り入れるだけでは不十分です。ユーザーの心を掴み、長期的な関係を築くためには、設計の根幹となる「思想」と、ユーザー体験の各段階に応じた「具体的な手法」を体系的に理解し、組み合わせることが重要です。
ビジネスシーンでゲーミフィケーションを成功させるための重要なポイントを、設計の骨格から具体的な手法、そして全体を貫く思想へと至る論理的な流れに沿って解説します。
まず最も根幹となるのが「ゴール」の設定です。これは、サービスそのものの本質的な目標であり、ユーザーがそのサービスを通じて何を得られるのか、どのような価値があるのかを明確に定義することを指します。
明確なゴールは、ユーザーがサービスを利用し続けるための強力な動機となり、エンゲージメントを維持するために不可欠です。ユーザーがサービスから得られる「価値」と「期待」を最初に定めることで、以降のあらゆる施策の方向性が定まります。
明確になった「ゴール」をユーザーに魅力的に伝え、その世界に引き込むために重要となるのが「世界観」の創出です。
これは、単にサービスの説明をするだけでなく、ユーザーがサービスを通じて得られる価値や背景を深く感じ取り、サービスへの没入感を高めるための要素です。複数のユーザーが共通の経験や感覚を持つことで、その「世界観」はより強固になり、ユーザー間の連帯感も生まれる可能性があります。
ゴールという骨格に、世界観という肉付けをすることで、サービスはユーザーにとってより魅力的で、感情的なつながりを持つ対象になります。
サービスの骨格が定まったら、次はいかにユーザーをその世界に導き、楽しんでもらうかの具体的な手法に移ります。その最初のステップが、ハードルを下げる「オンボーディング」です。
これは、商品やサービスの基本的な利用方法やその魅力・価値を伝え、説明書やヘルプを読まなくても使いながらわかるようにする手法を指します。
魅力的なキャッチコピーや無料体験で興味を引き、得られる価値を伝え、シンプルな遊び方をレクチャーすることで、ユーザーは安心して第一歩を踏み出すことができます。
キャッチコピーを作成する際に重要となるライティングスキル、「言葉選び」についてまとめた下記の資料もご参照ください。
オンボーディングを経て利用を開始したユーザーの行動を促し、継続性を高めるために有効なのが「可視化」です。
「可視化」はゲームへの第一歩であり、行動を数値で記録し、目標と比較し、ビジュアルで変化を示すといった工夫でモチベーションを高めます。
大切なのは、ユーザーが目指すべき指標を正しく可視化することです。数値やグラフによって現在地や進捗がわかれば、ユーザーは自然と目標達成に向けて自身の行動を調整するようになります。
個人の活動だけでなく、他者との関わりがエンゲージメントをさらに深めます。そこで重要になるのが「ソーシャル」要素です。
これは、ユーザー間の「つながり」を構築し、関係性を強化する役割を担います。ユーザーがサービス内で互いに交流し、協力したり、時には競争したりする機会は、サービス内での活動を活発化させます。
このソーシャル要素は、ユーザーがサービスを継続して利用する強力な動機付けとなり、コミュニティの形成や維持にも寄与します。
一度構築した仕組みを放置せず、ユーザーを飽きさせないためには継続的な改善、すなわち「チューニング」が不可欠です。
これは、ユーザーがサービスを使い続ける理由を提供し、長期的な関係性を築くための強力な要素です。
オンボーディングで導入されたユーザーに対し、KPI(成果指標)のデータを分析しながら、より深く、より高度なサービス体験を提供していくプロセスがチューニングです。
この反復的な改善を通じて、サービスを常に最適化し、ユーザーの継続的な利用を促します。
ここまで、設計の骨格と具体的な手法を見てきましたが、これら全ての根底に流れるべき中心的な思想が「おもてなし」です。「おもてなし」の本質は、ユーザーの心情を深く理解し、その心に寄り添ってサービスを提供することにあります。
ゴール設定や世界観の構築から、オンボーディング、可視化、ソーシャル、そしてチューニングに至るまで、これら全ての手法は、この「おもてなし」の精神をテクノロジーによって表現するための手段に他なりません。
つまり、「おもてなし」は、単なる機能提供を超えて、ユーザーの内発的な動機に働きかけ、サービス提供者とユーザーの間に深い信頼関係を築くための基盤となる考え方なのです。
この精神こそが、ユーザーに愛され、長期的なエンゲージメントを促すゲーミフィケーションの本質と言えるでしょう。
人間の本質的な欲求に焦点を当て、実際のビジネスに取り入れやすい代表的な手法を7つご紹介します。
特定の行動や貢献に対してポイントを付与し、達成度合いに応じてバッジ(称号)を与え、さらに利用者間のランキングを表示する仕組みです。ユーザーの達成欲求や、他者との比較を通じた関係欲求に働きかけます。
実践例としては、アプリやサービスの利用度に応じてユーザーをランク分けし、称号を与える方法などがあります。
購入や特定の行動に応じてスタンプが付与され、一定数集めると特典が得られる仕組みです。スタンプが貯まる達成感や、すべて埋まったときの特典に対する獲得欲求、さらに「集める」という行為自体が保存欲求に働きかけ、継続的な行動を促します。
実践例としては、来店回数に応じてスタンプを付与し、10個貯まると無料クーポンを提供する方法などがあります。
特定の行動や購買の機会を、期間限定や数量限定にすることで、「今行動しないとこのチャンスを失う」という回避欲求に強く働きかけ、行動を促す手法です。
実践例としては、オンラインショッピングサイトで、セールの残り期間を表示したり、在庫数を表示する方法などがあります。
利用者の過去の行動や進捗を記録し、可視化する機能です。これにより、ユーザーは自身の努力や進捗を振り返り、それを継続したいという保存欲求が刺激されます。
実践例としては、学習アプリで、総学習時間や完了した問題数、過去の成績推移などを表示し、学習継続のモチベーションを高める方法などがあります。
ユーザーの行動に対して、良い結果や肯定的な反応を即座に返すことで、その行動を強化する手法です。これにより、ユーザーは自身の有能欲求(自分自身の能力を認められたい)を満たし、達成感や喜びを感じ、次の行動へのモチベーションが高まります。
実践例としては、SNSで、投稿に対して「いいね!」や「コメント」がすぐに表示される仕組みや、フリマアプリで出品した商品の閲覧数が即座に確認できる仕組みなどがあります。
行動の結果に、ある程度の不確実性や偶然性を持たせることで、ユーザーの好奇心や期待感を刺激し、継続的な行動を促す手法です。人間は予測できない出来事に対して特に強い関心を持つ傾向があります。
実践例としては、ただクーポンを提供するのではなく、抽選制で当たるクーポンの内容を変える方法などがあります。
ユーザーがこれまでに投じてきた時間、金銭、労力といった「埋没費用(サンクコスト)」を意識させることで、「もったいない」という損失回避欲求を喚起し、サービス利用や行動の継続を促す手法です。
実践例としては、定額制オンラインサービスで、解約手続き時に「これまでに〇〇円分のコンテンツを視聴しましたが、解約すると全てアクセスできなくなります」といったメッセージを表示する方法などがあります。
これらの手法は、対象者や目的に応じて適切に選択し、組み合わせることで、より効果的なゲーミフィケーションの実現が可能となります。重要なのは、単に手法を適用するのではなく、ユーザーの本質的な欲求を理解し、それに応える形で設計することです。
ここでは、業界を越えた4つの成功事例から、自社のビジネスに応用できる実践的なアイデアを解説します。
くら寿司の「ビッくらポン」は、2000年の導入以来、日本のゲーミフィケーション成功事例の代表として進化を続けています。基本的な仕組みは5皿で1回ガチャが回せるというシンプルなものですが、2022年以降さらなる進化を遂げています。
2023年9月には「ビッくらポン!プラス」を全国展開。1皿につき10円の追加料金で3回に1回必ず景品が当たる仕組みを導入しました。さらに「スマホで注文」では550円ごとに1回挑戦可能という新たなゲーム機会も提供しています。
具体的な成果として、顧客の行動変容が顕著に現れています。「5の倍数」で食べ終わる顧客が増加し、「あと1皿で回せる」心理効果により追加注文が促進されました。
2024年から2025年にかけては、ポケモン、名探偵コナン、ちいかわなど人気IPとの戦略的コラボレーションを展開。YouTube配信者による「コンプリート挑戦」企画など、SNSでの話題性も生み出し、コラボ期間中の来店頻度向上を実現しています。
花王は2023年3月、AI肌測定サービス「肌レコ」を開始。スマホカメラによる肌測定結果をグラフ化し、継続測定で「肌レコマイル」を獲得、貯まったマイルでキャンペーン応募や限定イベントに招待される仕組みです。
測定結果の可視化とポジティブフィードバックにより、継続的な肌測定の習慣化に成功。同年代平均データとの比較機能でモチベーション向上も実現しています。研究員の目視評価をAI化した独自技術と、CRM基盤との連携によるパーソナライズ強化が特徴的です。
東急百貨店ネットショッピングでは、バレンタイン特集のページを訪れたユーザーに、属性に合ったブランド・商品をランダム性のある「ガチャ形式」で紹介するゲーミフィケーション施策を実施しました。
バレンタイン特集ページでのガチャ施策のイメージ
バレンタインデーは、プレゼント目的だけでなく自分用に買うという楽しみ方もあります。ガチャという形にすることで、繰り返し楽しめるコメントにすることを意図して企画されました。
この施策では、非表示時と比べて購入完了率が112%に改善しました。
キリンビールでは、家庭用ビールサーバーのサブスクリプションサービス「キリン ホームタップ」を展開しています。ホームタップは、顧客が何もしなくても定期的にビールが届くため、サイト訪問の理由が少ないという課題がありました。
この課題を解決するために、ゲーミフィケーションを取り入れ、顧客がマイページにアクセスしたくなる仕組みを作りました。具体的には「インスタントウィン(くじ)」を実装し、A賞にはグラスなど特別な景品、B賞・C賞にはクーポンが当たるという施策を実施しました。
その結果、サイト訪問率が向上し、ページを訪れた後の回遊や購入にも良い影響が見られました。また、メールやLINEでこの施策を告知したところ、通常の新商品の販促メッセージに比べて、クリック率が約4倍になるなど高い効果が確認できました。
インスタントウィンがうまくいき、さらに、2025年から始めた「ENJOYチャレンジ」という会員プログラムでは、訪問だけでなく購入する理由や継続する理由を提供し、「これを達成するとこれがもらえる」という仕組みを構築しました。
インスタントウィンとミッションプログラムのイメージ
セガ エックスディーの『国内ゲーミフィケーション市場規模調査』では、2024年の「提供事業者」ゲーミフィケーション市場規模は463億円、2030年の同市場は約4倍となる1,915億円に拡大すると予測しています。
技術面では、AI・メタバース・ブロックチェーンとの融合により、より高度で効果的な体験設計が可能になっています。単なるゲーム要素の付加から、人間の本質的な動機に基づく体験設計へと進化し、持続可能な行動変容を実現する手法として確立されつつあります。
この大きな潮流をいち早く捉え、自社の製品やサービス、組織運営にどう活かせるかを検討することが、これからの時代に競争優位性を確立するための重要な鍵となります。人間の「楽しむ力」を最大限に引き出すゲーミフィケーションは、あらゆるビジネスの可能性を解き放つ起爆剤となるに違いありません。
施策の効果を最大化するための 消費者の行動心理をマーケティングに活用する方法
人間が行動をするときにどのような心理に基づいているかを紐解く行動心理学。その原理原則を正しく活用すれば、商品やサービスの魅力を最大限に訴求したり、顧客を動かすことが可能となります。この資料では、マーケティングに活用できる行動心理学についてわかりやすく解説します。
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