利休七則の「おもてなし」から考える、心を尽くしたWeb接客ポップアップとは

マーケティング接客

榎原 直人

接客は、しばしば茶道の「おもてなし」に例えられます。千利休の「利休七則」をもとにおもてなしの考え方を学び、それがWebサイト上での接客ポップアップにどのように生かせるのかを、具体例を交えながら考えていきましょう。

弊社代表の深田がインタビューやイベント登壇の際によく「おもてなし」を活用したWeb上の接客、というような話をしています。

ポップアップのWeb接客に「おもてなし」をどのように組み込んでいくのか、今回はそこをかみ砕いてご説明したいと思います。

おもてなしの「利休七則」とは?

まず「おもてなし」とは何でしょうか?

広辞苑では次のように書かれていますが、これだけではよくわかりません。

もて-な・す【持て成す】
・とりなす。処置する。
・取り扱う。たいぐうする。
・歓待する。ごちそうする。

出典:広辞苑

Wikipediaでは次のように記されており、これは「考え方」としてはなるほど、と思える内容です。ですが、具体的にどう「心をこめる」のかやはりよくわかりません。

おもてなしとは、心のこもった待遇のこと。 顧客に対して心をこめて歓待や接待やサービスをすることを言う。

Wikipediaより引用

言葉の意味だけ追いかけても、なかなか関連性は見いだせなさそうです。

普段、深田が「おもてなし」の話をする際、「京都のお茶屋さん」の例を挙げることがよくあります。ですので今回は、京都のお茶といえば「千利休」ということで、茶の湯のおもてなしの真髄である「利休七則」をもとに「おもてなし」と「ポップアップ」の関連性を考えていこうと思います。

「利休七則」とは、お茶の基本の心構えである「おもてなし」について記した七つの心得です。

「利休七則」
一、茶は服のよきように
二、炭は湯の沸くように
三、夏は涼しく冬は暖かに
四、花は野にあるように
五、刻限は早めに
六、降らずとも雨の用意
七、相客に心せよ

茶道本舗 和伝.comより引用

利休七則の解釈を含めてこれらの「おもてなし」の考え方をポップアップに当てはめてみると、どのようになるのでしょうか。

利休七則で考えるWeb接客ポップアップ

ポップアップを検討する際には、次のような項目について考えます。それぞれの項目に合った七則を当てはめて考えていきましょう。

課題具体化

万人の憂い、とは、Web上では「探しているものが見つからない」「手続きを進める上で不安が残る」「よくわからない」といったユーザーの不満や不安が考えられます。それらの「憂い」をユーザーを想う心で具体的に想定していく、ということです。

状況確認

これらは「どうして不安が残るのか」「どうしてわからないのか」を理解することで、ユーザーのその場その場に適切な情報を、適切な声かけによって提示するということです。

「要となるツボ」とあるように、出すタイミングや、表示方法(形や色など)も配慮して組み立てていく必要があります。

表示内容検討

これらは表示する内容について、伝えたい思いを長い言葉で表すのではなく、極力端的に、ユーザーに伝わる言葉を選ぶこと、そして「無垢な心」というのは「おもてなし側の狙い」というよりも「ユーザーのことを考えた結果、こちらの方がマッチする」ということになります。

実施している内容が、本当にユーザーに対して合致しているかを振り返ってみると良いですね。

最後に残ったこれは、「おもてなしをする側が自らの時計を進めて考える(先行して考える)ことで、焦らず対応できる」ということですので、事前に考え、対応を設定しておくWeb接客は、まさにこれを体現しているということになります。

さすが利休と言いますか、現在の接客にも通じる「おもてなし」の考え方を茶の世界で実施していたわけですね。

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「おもてなし」感のある接客事例

では実際にこれらの心がけをどのように活用して「おもてなし」感のある接客ができるか、考えてみましょう。

具体的な状況を例に挙げてみます。

「母の日のギフトをカートに入れたユーザーが、カートで多く離脱しているのを減らしたい」という場合に、どのようなポップアップの接客を検討していくか考えます。

課題具体化

まずは「課題具体化」から考えていきましょう。

想定されるユーザーの動きとしては、母の日のために贈り物をサイトで選び、カートに来ているわけです。時間をかけて選んだ商品ですから、そのまま購入して手続きを終わらせたい気持ちはあるはずです。にもかかわらず、そこで離脱してしまう。その原因となる「憂い、つまりは不安や不満」は何なのでしょうか? ユーザーの気持ちになって想定していきます。

中でも最も気になるだろうと考えられるのは「母の日に間に合うか」という「憂い」です。ですので、まずはその憂いを払拭してあげることが肝要となるわけです。

状況確認

続いては、不安の状況を考える「状況確認」です。

「母の日に間に合うか」という疑問・不安は、カートページに到達した際にわき起こるのかというと、必ずしもそうではありません。

「相手の気持ち・状況を考えると、もちろんカートページで「いざ注文」というタイミングで気付く人もいるでしょう。商品を選んでいる際、もしかしたらWebサイトに訪れたタイミングで「母の日に間に合うものがないか」という視点で探している可能性があります。

「準備は要となるツボを押さえる」に従うと、当初は「カートページでの離脱防止」という課題から始まったものの、カートページで声かけするのでは遅い(準備が足りていない)可能性も出てきます。その場合は、「母の日に間に合うかという不安」を解決するため、カートページではなく、商品詳細ページにポップアップの案内を出すことで、より幅の広いユーザーに気付いていただけるようになると考えられます。

「カート離脱防止だからカートページで声をかければいいだろう」とだけ考えていると、「要となるツボ」を外してしまうことになりかねません。ユーザーは何に不安を感じていて、その不安を解消するにはどこで声をかければいいのか。商品詳細ページから「母の日に間に合うかという不安を解決しておくことで、結果的にカートでの離脱も減らすことになります。

また、「間に合う」ことを伝える以上、いつまでなら間に合うのかの期限も確認しておく必要があります。注文数や配送先にもよるかと思いますが、ポップアップを表示するのは、例えば母の日の2日前など、極力問題が発生しないであろう日時までにしましょう。

表示内容検討

では、商品詳細ページで「母の日に間に合う」ということをどのようにお伝えすれば良いのでしょうか。ここでは「母の日に間に合うか」を気にしている方と、その不安にまだ気付いていない方が混在しています。

もちろん、来訪時にいきなり「まだ間に合います!!」と大きく表示する方法もありますが、その方法がユーザーに対してきちんと「伝わるか」を工夫しなければなりません。次のことがポイントになります。

上記を踏まえると、次の施策がいいのではと考えられます。

  • カートボタンが画面に表示されたタイミングで
  • 「本日の注文で「母の日」に間に合いますのでご安心ください。」というポップアップを
  • 母の日の2日前まで表示する

同じポップアップを何度も表示するとユーザーに煩わしく思われてしまうので、1ユーザーに対して1回、多くても1セッション1回表示で良いかと思います。

画像のように「本日の注文で」と入れることで、「明日だと遅いかも?」という思いをユーザーに持ってもらい、「今、早めにここで買っておくのがよさそうだ」と思わせる効果も狙っています。

「母の日に間に合う」という不安を解消して安心してもらう

上記はすべて「仮説」ではありますが、SprocketがこれまでWeb接客を実施してきた知見や、自分自身の経験などから導き考え抜いた「仮説」となるため、かなり確度が高い状態からA/Bテストの検証を開始できると考えます。

当てずっぽうの検証を複数回していくことよりも、しっかりとした狙いを持った内容で成果が得られたかどうかを検証していくほうが効率的です。

ちなみに、こうした考えを踏まえずに「カート離脱防止のポップアップ」を出すとしたらどうなるでしょうか。カート離脱を防ぐため、カートにきたユーザーに「今なら10%OFF」と大きくバナーを出してしまうかもしれません。

これでは「母の日に間に合うか?」という不安は解消できない

もちろん、このポップアップでたまたま成果が出ることもあると思いますが、これまで仮説で考えてきた「母の日に間に合うか?」というユーザーの不安は払拭できていないままなので、「10%オフ」という価格面でのリスクを負いながらも、大きな改善は難しいのではないかと考えます。

このように見ていくと、茶の湯で名を馳せた千利休は、Web接客の世界でも活躍できそうですね!

まとめ

今回は、Web上の接客での「ポップアップ」でも「おもてなし」が表現できるということを、おもてなしの真髄である「利休七則」からひも解いてみました。

茶の湯でもお客さまが茶室に入る際には、お客さま専用の入り口から中に入っていくわけですから、茶室で座っていただくまでの間は、こちらからは「見えない状態でのおもてなし」となります。

目の前で行動で見て応対していくのではなく、お客さまが見えない状態でも、お客さまの行動を予測し準備を整えておくというところで、Web上での接客と利休七則の親和性は高いと考えます。

「おもてなし」を研ぎ澄ましていくためには、こういった茶の道だけでなく、ほかにも糧となる教えはたくさんあります。また、自分自身の経験からの新たな気付きもあると思います。

今後もWeb接客を通じて、ただポップアップを表示するだけではなく、いかにおもてなしの気持ちを乗せつつ、さりげなく相手に気付いてもらいつつ、企業・ユーザー双方にとって良い行動が取れる方法は何かを追求してまいります。

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