顧客体験というけれど?体験を形づくっているものとは?
「顧客体験」とか「カスタマーエクスペリエンス」とかいう言葉を耳にする機会が増えた。ユーザーの立場からすれば、心地よい体験を提供してくれるサービス・プロダクトを使いたいと思うのは当然だ。では、顧客体験を形づくっているものとはどういうものだろうか?
例えばいま、僕はスタバでこのブログを書いている。
駅のスタバだから人は多めだし、音楽もちょっと音量が大きい。ざわついていて落ち着くという感じでは正直ないのだが、wifiと電源があってパソコンを取り出して長居しても大丈夫な雰囲気がスタバにはある。なんならおもむろにテレカンを始めても、それほど居心地の悪い思いはしない。店内もなんとなく小綺麗だしおしゃれだ。
少なくとも僕はそれをスタバに期待しているし、電源はないスタバもあるものの、それ以外の要素はほぼどのスタバでも過去得られてきた。
こういう体験を提供してくれることがわかっているので、またスタバに行こうと僕は思う。
リワードプログラムがついたアプリも良くできていて、150ポイント貯めると700円分のクーポンがもらえるので、時々僕はこれでケーキを食べられるというのも楽しみの1つだ。
1日に2回いくと2杯目のコーヒーは100円で買えるというのも良い。このあたりは、どうせ行くならスタバにしようかなと思わせるし、実際にそういう行動を取っている。
今あらためて見てみると、どうやらスタバは定期的にメールを送ってきていることに気づいたが、一度も開いたことはなかった。
恐らく今後もないだろう。サイトは店舗を探すために見ることはあるけど、それだけだ。
接客は・・・確かにほかのお店と比べると愛想は良いのかもしれないが、僕的にはマイナスではないものの、特にプラスではない。
ときおりコーヒーを頼むときに「スマトラにしますか?クリスマスブレンドにしますか?」と銘柄だけ聞かれて「知るか」と思うくらいだ。どちらかというとマイナスかもしれない。
さて、スタバの顧客体験を主に形づくっているのはなんだろうか?
圧倒的にお店だ。デジタル?ほぼ関係ない。接客?これも関係ない。コーヒーの良し悪し?も関係ない。
完全に主観的な話になってしまって恐縮ではあるが、顧客体験を形づくっている多くの要素は、商品だったりサービスだったりお店だったりする。ここで一番言いたいことは、残念なことにマーケティングツールベンダーとしてクライアント企業がつくり出す顧客体験に影響を与えられる要素は、それほど多くはないということだ。
ECでさえ、届いた商品の良し悪し、届くまでの時間の短さ、価格といった、マーケツールベンダーとしてコントロールできない要素のほうが正直大きいだろう。
もちろん中にはデジタルチャネルで体験が完結するようなサービスもある。スマホのゲームなんかはそうだ。
でもこれもゲームの体験設計が圧倒的に重要で、マーケツールベンダーの出番がそれほど多いとは言えない。
なのでマーケツールベンダーが「顧客体験をよくしましょう!」と声高に叫んでいるのをみると、どうにも違和感を感じてしまう。
自分で責任を取れない・本質的な課題解決にコミットできないことを問題視することにどういう意味があるのだろうか。
ましてや、「そのためにxxな基盤や機能が必要です」なんて机上の空論もいいとこだ。そんな基盤や機能がなくてもよい体験はつくれるし、そもそもユーザーがそんな機能を重視しているとは思えない。
ではマーケツールベンダーとして何をするべきなのか。僕は大きく2つのタイプがあると思う。
1つは、すでに顧客企業がやっていることを効率的にできるようにする、というアプローチだ。
もともとMAはこういう発想でつくられてきたはずだ。
手作業でやっていたことを自動化できれば、もっと効率よくメールを送れるようになる。全員に同じメールを送らなくても済むようになる。よりきめ細かいコミュニケーションを設計するために、人間の稼働を割くことができる。先進的な企業がやっていたことを、そこまででもない企業でもやることができる。
もう1つは、顧客企業に新しい視点を提供するというアプローチだ。
そういう発想はなかった・やってみたことはなかったが、言われてみれば確かにありだ。やってみたい。
意外にABテストなんかはこっちに近い気がする。もちろんツールがなくてもやっていた人はいたと思うが、ツールがないとかなり実践のハードルは高いので、やったことがある人はほぼいなかったのではないだろうか。
あるいはファンベース、という発想もこっちに近いと思う。
僕らは、Web接客は本来後者なんだと思っている。
接客的な要素はなんとなくあったほうが良さそうな気がするが、どう取り入れれば良いのかよくわからない。あるいはデジタルチャネルで接客のあるべき姿がイメージできない。本当にそんな要素が必要なんだろうか。ポップアップってウザいだけなんじゃないか。
Sprocketとしてずっと気をつけているのは、接客的なコミュニケーションが、新しい視点の提案になっているのかどうか、ということがまずある。
接客体験というよりもウザいポップアップにならないようにするにはどうすればよいかをずっと考えて実践し続けてきた。だから、ジモスの川上さんからそんなことを言われたときには本当に嬉しかった。
そしてもう1つ、視点の提供アプローチで難しいのは、基本的に前例がないことなので、その視点に確かに意味があるということをなんとかして示さないといけないということだ。
接客的かもしれないけど、なんの意味があるんだっけ、となってしまってはやはりこれも続かない。なので、接客的なコミュニケーションでありつつ、それが実際として効果があるのかをかなり厳密に眺めてきた。
ゲーミフィケーションの取り組みで失敗したなと思っているのがここだ。これも明らかに「新しい視点の提供」アプローチなのだが、実際の効果を示しきれなかった。お客さんに納得してもらえる形で示しきれなかった。当初(今もだが)から僕らが数値にこだわってきたのもここが理由にある。
話が長くなった。
マーケツールベンダーとして、顧客体験の一部にしか影響を与えられないという自覚を持ちながらも、今までにない視点を提案できれば、よい体験の構築に一役買えるはずだ。いまデジタルに足りていないのは接客的なレイヤーの体験だと思ってきたし、このレイヤーに取り入れられることはまだたくさんある。
そして、ユーザーの行動に直接的に影響を与えられるような体験がどういうものなのか。ユーザーが実際に行動を変えるのはどういう瞬間なのか。僕らが試行錯誤を続けているのは突き詰めるとここになる。
顧客体験の全体に関われなくても、ふとした瞬間の体験でユーザーの行動を変えることができれば、マーケツールベンダーとして存在意義を問えると思う。もちろん関われる体験の領域は広げたいし、行動を変えるきっかけもたくさん生み出していきたい。
そういうことをこれからもやっていきたい。
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