本資料では、公益社団法人 島根県観光連盟がSprocketの「データ分析エージェント」を活用し、旅行のきっかけとなる状況、つまりカテゴリーエントリーポイント(CEP)の優先順位づけと施策の整理に取り組んだ事例を紹介します。
島根県観光連盟がAIエージェント活用でCEPの優先順位と打ち手の整理に挑戦。工数は50%削減
誰に何を届けて、旅行消費額の向上を目指すのか
――はじめに、連盟の役割とお二人の担当業務を教えてください。
岡氏:島根県における観光の振興を図り、観光を通じて地域の活性化に寄与することが法人の目的です。生活者が旅行を検討する前の段階と、旅行を検討している段階、それぞれにアプローチする取り組みを県の観光振興課との役割分担のもと進めています。
島根県が掲げるKPIに準じて、旅行消費額や延べ宿泊人数などの目標を設定しています。
私はマーケティング推進とデータ分析の担当で、個別事業に横断的に関わる立ち位置です。交通環境や市場規模などからターゲットとするエリア自体は決まっているので、「そのエリアに住んでいる方にとって、島根県の観光地の特長が価値となり得る文脈は何か」という前工程段階を担当者と一緒に考えることが主な役割のひとつです。
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公益社団法人島根県観光連盟 営業課長代理 岡 寿典氏 |
渡部氏:私は観光サイト「しまね観光ナビ」の運営を担当していて、サイト内の企画やWeb接客ツールの運用、施策の仮説検証も行っています。旅行を検討している段階の方が主な対象です。
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公益社団法人島根県観光連盟 しまね観光ナビ運営担当 渡部 渚氏 |
点が線につながらず、都合の良い仮説に偏っていた
――Sprocketとお付き合いいただく前の課題を教えてください。
岡氏:エリアに対してどうアプローチするかを考え、根拠を持って関係者に説明したいと考えていたものの、データを細かく分析することが難しい状況でした。複数のデータソースを参照して考えをひとつにまとめることや、条件を絞って集計することですね。データ自体は色々あるのですが、全体傾向しかわからず、個別の施策に活かせる示唆までは得られていませんでした。
手元にあるものとしては、来訪者アンケート(旅行動態調査)、未来訪者アンケート(認知度・旅行意識調査)、国内旅行統計、しまね観光ナビのWeb行動ログなどです。来訪者アンケートでは、「どこの居住地が多いか」はわかっても、「その人たちがどういう行動をしているか」は表面的にしかわかりません。点が線につながらないため、次に何をすればいいかという示唆が出ませんでした。
こちらの目的を持ってデータを読み解く試みはあったのですが、どうしても「こうじゃないか」という都合の良い仮説に偏ってしまっていました。なんとなくで始めてしまうと、終わった後に「どこがよかったのか・問題だったのか」結果を評価できません。データは溜まっていくけど出口が整っていないという感じでした。
GA4も定期的に確認していましたが、探索レポートはひとつのレポートでできる分析の数に制限があるので、サイト全体を複数の軸で把握したいときに、あれを見て、これを見て、と行ったり来たりすることになります。1回あたりの工数がかかり、それが大変でした。
――根拠が持てないことは、企画の幅にも影響していましたか。
岡氏:目新しさや他所の成功事例など、どうしても手段の部分に意識が向いてしまいがちでした。根拠を持って前工程がきちんと整理できていないと、なんとなくで進んでしまって、レバレッジが効かないところを頑張ってしまうことがありました。
対話しながら分析できるAIエージェントを本導入
――Sprocketを知ったきっかけを教えてください。
岡氏:当時、Webサイトにはユーザー属性や閲覧内容に合った情報を案内する仕組みがなかったので、まずWeb接客ツールを探しました。分析は自前で行い、それを根拠に接客を出す想定でした。
Web接客の検討時に見せていただいたSprocket Insightsが、Webサイトの行動分析から施策の具体的な案まで示してくれることに驚いたのがきっかけです。サイト内行動やコンバージョンへの貢献要素を可視化できる点、改善策の示唆が具体的な点が有用そうだと感じ、まずSprocket Insightsをトライアル導入しました。
そのトライアルを進める中で、担当の方から「データ分析エージェント」というAIエージェントもご紹介いただきました。Sprocket Insightsとは別のサービスで、自然言語でデータについて「なぜこうなっているのか」を質問でき、対話形式で分析を深められます。そこが当時は衝撃的でした。
渡部氏:ダッシュボード系のツールは、扱う担当者に一定の習熟や高度なスキルが求められると感じていました。データ分析エージェントは自然言語で答えてくれるので、スキルがなくても使えて、頼りになると思いました。
――導入前にお持ちだった、数字の正確性への不安は解消されましたか。
岡氏:最初は本当に合っているのか不安でしたが、実際に使ってみて、GA4の数値と照合・比較したり、感覚的に変な出力をしないか確認したりして、大丈夫だとわかりました。PoC期間中にデータを根拠に議論の前提を作ることができ、施策につなげられる感触が得られたことで、確信に変わりました。
渡部氏:AIの出力が絶対の正解ではないので、最終判断は自分たちでします。ただ、使えば使うほど、エージェントがこちらのプロンプトや考え方に馴染んで、使いやすくなっていきました。都合の良い仮説に偏っていたという課題も、解消されたと思います。
岡氏:上申のときも、工数削減というコスト面と、戦略策定の質向上という投資対効果の面、両方の視点で現在地とありたい姿を比較して説明しました。特定エリアの訴求軸のたたき台がすぐに出る点など、導入の有無で業務の進め方そのものが変わることを示して、スムーズに本導入が決まりました。
水谷(Sprocketコンサルタント):データ分析エージェントは、2種類のプロンプトを組み合わせて動いています。
ひとつはシステムプロンプトで、すべての導入企業で共通して使用され、AIの基本的な振る舞いや指示、Sprocketがこれまでの支援で積み上げてきたナレッジが入っています。Sprocketが開発・保守している部分です。
もうひとつがサービスプロンプトで、企業や商品、サービス固有の指示や情報を記述します。設問と選択肢が何を意味しているのか、エリアやページをどう分類するのか、集計のときに何を約束事にするのか。こうした定義をまとめて構造化し、エージェントが正しく読み解ける状態にしておく必要があります。
島根県観光連盟さまの場合、アンケートの回答はCSVで、観光統計はPDFをテキスト化したうえで、弊社のBigQueryやナレッジデータベースに格納しました。そのデータをデータ分析エージェントから参照できるよう、サービスプロンプトも調整しています。そこをご一緒した結果、サービスプロンプトは4万5,000文字になりました。
最初の立ち上げをご一緒した後は、運用しながらお客様ご自身で育てていける部分でもあります。実際、島根県観光連盟さまも使いながら調整されています。
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同連盟におけるデータ分析エージェント活用の全体像。6種類のデータをサービスプロンプトで定めた前提のもとで分析し、施策や発注仕様書づくりにつなげている |
まず変わったのは、企画から効果検証までにかかる工数
――導入後、業務プロセスや工数はどう変わりましたか。
岡氏:以前はGA4から自分で集計して、1本のレポートを作るのに半日から1日、4~8時間かかっていました。それがデータ分析エージェントを使うことで2時間程度になっています。半分以下ですね。
記事コンテンツの制作やWeb接客シナリオの作成といったWebサイトまわりの施策でも、分析から企画、制作、効果検証までの工数が約半分になりました。
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データ分析エージェント導入前後の業務プロセス(記事コンテンツ制作)の変化。全8ステップのうち7ステップでAIを活用し、データ収集から効果検証までの工数が半減 |
属性ではなく、旅行のきっかけから訴求軸を決める
――データ分析エージェントを使った具体的な取り組みについても教えてください。
岡氏:県西部の石見エリアに萩・石見空港があります。羽田空港との直行便があるのですが、首都圏の周辺には魅力的な観光地がたくさんある中で、わざわざ飛行機に乗り、時間とお金をかけて石見エリアに来てもらうためにはどうすればよいかという課題があります。
国内旅行のきっかけとなる状況、つまりカテゴリーエントリーポイント(以下、CEP)が色々とある中で、「どのCEPで石見エリアを思い出してもらえれば選ばれる伸びしろが大きいか」という問いから、その優先順位を見つける試みを行いました。
CEPの規模や、石見エリアの体験が価値となり得るかどうか、費用・時間といったコストへの許容度など、関連要素を総合的に評価する方法をデータ分析エージェントと一緒に作りながら分析を進めました。
同じユーザー属性でも、置かれた状況やタイミング、つまり旅行のきっかけによって価値と感じるものは変わってきます。例えば、同じ40代・女性でも、「仕事で忙しい日々が続き、疲れをリセットしたいとき」と「結婚10周年の記念日が近づき、いつもと違う過ごし方をしたいとき」では、思い浮かべる解決方法が異なります。仮に国内旅行で解決するとなった場合でも、行き先は違うはずです。
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国内旅行のCEP(旅行のきっかけ)抜粋。同じ人でも、どんな気持ちから旅行に出るかによって、選ぶ行き先は変わる |
――どのように分析を進めて、どのような結果が出たのですか。
岡氏:過去のアンケート調査やSNS、メディアの情報をもとに国内旅行のきっかけとなり得る状況をCEPとしてリスト化し、過去1年以内に1泊以上の国内旅行をした首都圏在住者向けに調査を行いました。直近の旅行のきっかけ、実際に行った旅行先、移動時間、旅行費用、交通手段、きっかけごとの石見エリアの想起などを聞いています。
この調査を軸に、3つのデータを補助的に使いました。萩・石見空港~羽田便で来県した方へのアンケートは来訪者が何に満足しているかの確認に、石見エリアの観光地属性データはどのスポットがどんな欲求に対応できるかの整理に、国内旅行統計は旅行動機の確認に使っています。属性データは私たちによる整理ですが、世界遺産登録のような客観的な事実もベネフィットの根拠として加えました。
首都圏から石見エリアまでの時間やお金は旅行検討段階でどうしてもコストとして知覚されます。ただ、その許容度がCEPによって変わることもアンケートでわかりました。CEPによって対応する観光地や、価値となり得る体験の強さも変わります。たとえ思い出してもらえたとしても、体験の強さへの期待がコストを上回らないと基本的には来ていただけないと思います。
そのうえで、CEPごとに規模、石見エリアの適合度、コスト許容度、想起の伸びしろ、競合観光地との比較など、8つの変数でスコアをデータ分析エージェントに試算してもらいました。ただ、手元にデータがなく推定で置いたものもありますし、変数に落とせない文脈もあるので、スコアは議論の材料と位置づけ、最終的な優先順位は関係者で議論して決めました。
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データ分析エージェントが出力した評価の構造。CEPごとに、規模・石見エリアの適合度・障壁の解消しやすさ・競合観光地との比較の4つの観点と、8つの変数で優先順位をつけている |
岡氏:最初、アンケートで最も回答数が多かったのは「疲れやストレスからのリセット」でした。しかし、データ分析エージェントとのやり取りの中で、「疲れやストレスからのリセット」は生じる欲求がマイナスをゼロにする性質のためか、コスト許容度が他と比べて低く、遠方の石見エリアは選ばれにくいのではないか、という指摘がありました。
最大のものを自動的に選ばず、条件に合う判断をしてくれたのは、非常に助かりましたね。
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データ分析エージェントによるCEP別の定量評価イメージ(一部抜粋)。規模の大きい「疲れやストレスからのリセット」はコスト許容度が低く対象外となった |
――分析結果を施策に落とし込む部分は、支援会社にどう伝えているのですか。
岡氏:CEPという考え方自体が私たちのまわりではまだ新しく、施策に落とし込んだ前例も多くありません。そこで、データ分析エージェントに具体施策案を出してもらいながら、進め方を整理しました。支援会社の方へは、分析結果と背景を示したうえで、具体的な施策の提案をお願いしています。
――データ分析エージェントがなければ、この分析や施策への落とし込みはできましたか。
岡氏:できなかったと思います。計算や構造化も含めて、従来の表面的な分析にとどまっていたはずです。施策のオリエンテーションや社内説明資料の作成も、非常にスムーズになりました。
汎用AIとの差は、安全に使える環境と、施策までの伴走
――汎用AIと比べて、データ分析エージェントを使い続けている理由を教えてください。
岡氏:ひとつはセキュリティ面での安心感です。導入前から汎用AIは使っていたのですが、連盟内にガイドラインがそろっておらず、個人でなんとなく触っている状態でした。
また、AI設計の専門家がいるわけではないので、最新情報をキャッチアップしたり、安全に使用できる状態をつくったりするのを自分たちだけで行うのは難しいですし、不安もあります。その点をカバーしていただけるのは助かっています。
自分たちだけでやろうとすると、前提となる設定を別の会話に引き継いだり、蓄積として活用したりすることがうまくできず、前提を毎回説明することになります。1回ごとの分析はできても、積み上げていくことが難しい。
渡部氏:蓄積されるという点は、実務でも大きいです。社内で担当者の異動があってもノウハウやナレッジが残っていくので、個人のスキルに依存しません。そこは組織として安心できる部分だと思います。
岡氏:もうひとつは、単なるツールの提供にとどまらず、データ分析から出口となる施策の壁打ちまで伴走してもらえる点です。コンサルタントの方が壁打ち相手になってくれて、こちらが実現したいことを整理してAIに実装していただいたり、最新情報を踏まえた提案をいただいたりします。
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汎用AIを自分たちで運用する場合との違い。前提の共有やナレッジの蓄積に加え、安全に使える環境と伴走支援が、継続利用の理由になっている |
水谷(Sprocketコンサルタント):汎用AIをお使いになる場合、分析の前提となる情報を整えておくこと自体が簡単ではありません。社内に散らばった定義や情報をまとめて構造化していく必要がありますし、説明が抜ければ解釈がぶれてしまう。それを自分たちだけで行うことになります。
私たちSprocketは、ツールを提供して終わりではなく、お客様がツールを使いこなせる状態になるまで、そしてその先も継続してコンサルティングでご支援しています。何を分析すべきかを一緒に考えたり、分析結果をどう施策につなげるかを壁打ちしたりしています。
運用が回り始めてからのほうが、ご一緒する時間は長いかもしれません。島根県観光連盟さまの案件でも、分析の枠組みを決める段階ではSprocketが壁打ち相手として入っています。AIと人をセットでお使いいただく形が前提です。
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Sprocket コンサルタント 水谷 裕輔 |
PDCAを回し、地域全体へ横展開
――今後、どのようなことにチャレンジしていきますか。
岡氏:色々な場面で活用してナレッジを蓄積していきたいです。得られた結果をデータ分析エージェントにフィードバックして、地域の関係者へ横展開していきたいと考えています。
――最後に、Sprocketの導入を検討されている方へ一言お願いします。
岡氏:ツールとしての良さはもちろんですが、どうデータ分析エージェントと向き合うかというアプローチまで伴走していただける強みがあります。セキュリティの安心感も含めて、活用を考えている方にはおすすめです。
渡部氏:初心者でも安心して使えますし、使うほどこちらの意図を汲んでくれるようになるので、おすすめしたいツールです。

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