キリン ホームタップが実現するデータドリブンな戦略的アプローチ
キリンビール株式会社が展開する家庭用ビールサーバーのサブスクリプションサービス「キリン ホームタップ」は、2017年のサービス開始以来、お客様の日常に特別な体験を提供し続けています。 本資料では、同社のデータドリブンマーケティングへの挑戦と成果を解説します。
――貴社のダイレクト事業におけるビジョンと役割について教えてください。
菅岩氏:当社のダイレクト事業は、新規事業としてお客様と直接接点を持つ事業を立ち上げており、「日本中の1人1人のお客様と、深く、永くつながり、お酒を通してよろこびのある暮らしを生み出し続ける」ことをビジョンに掲げています。
また「つくりたてビールの特別なおいしさで、お客様の日常に忘れられないよろこびの瞬間を創り出す」ことを存在意義とし、誰よりもお客様を理解するためのエンジンとなり、高収益ビジネスの創出や高付加価値ブランドの育成を目指しています。
ホームタップ事業もその一つで、CRMチーム、獲得チーム、フルフィルメント、カスタマーサクセスなど、様々な機能を持つチームで構成されています。
会員制 生ビールサービス「キリン ホームタップ」 |
――ホームタップ立ち上げ当初、どのような課題があったか教えてください。
ホームタップは2017年にスタートしましたが、当初はダイレクトビジネスやそれに伴うデジタルマーケティングのノウハウも十分ではありませんでした。デジタルを起点としたPDCAサイクルの考え方も浸透しておらず、会員がどのステージでどのくらい滞留しているのか、売上を伸ばすための要因やその構造なども詳細には把握できていませんでした。
当社はもともとマスマーケティングを得意としていたため、MAやCX改善ツールなどのOne to Oneマーケティングツールは導入されておらず、データ活用やセグメントごとのコミュニケーションが課題となっていました。
キリンビール株式会社 マーケティング部 事業創造室 室長 菅岩 誉広氏 |
――コロナ禍での事業環境の変化とその影響について教えてください。
菅岩氏:コロナ禍では、外でお酒を飲めなくなったことで、自宅でサーバーから注ぐビールを楽しみたいという需要が高まり、ホームタップの申し込みが急増しました。しかし、コロナが収束すると、契約数、お客様一人当たりの注文量は減少傾向になりました。
イノベーター理論でいうと、早い段階で新しいものを受け入れる「アーリーアダプター」層までは広がりましたが、それ以降の層には十分に広がりきっていません。
また、事業の優先順位も変化しました。最初は新規のお客様の増加が最優先でしたが、コロナ禍をきっかけにCRM(顧客関係管理)の重要性が高まり、専任部署も立ち上がりました。デジタル分野に強い社員も、その流れで参画することになりました。
――CRMにおいて、どのような顧客分析を行い、その結果をどのように活用しようとされたのか、またその過程で直面した課題について教えてください。
野崎氏:ホームタップのお客様は非常に多様で、一度に多く購入されるお客様、さまざまなクラフトビールを楽しんでいただけるお客様、定番のビールを継続的に購入いただいているお客様など、楽しみ方は多岐にわたります。
ただ、売上を伸ばす要素はホームタップのサイトに来ていただいて、「利用量を増やす」、「商品を変更する」「注文のスキップを減らす」という3つの行動しかありません。この要素を可視化し、徹底的に分析・改善することにしました。
具体的にはこれらの行動別にお客様を利用頻度や注文商品の傾向によって、大きく6つのセグメントに分けています。こうしたセグメントごとに、お客様が「どの段階で離脱しているのか」「どのような商品が必要なのか」「どのような対応が求められているのか」を分析し、それぞれの特徴や求めている情報を整理しました。
しかし一方で、セグメントが発見できていても、効果的に活用できるマーケティングツールがなかったため、それらのセグメントを活かしきることができていませんでした。
また、ホームタップはサブスクリプションサービスということもあり、お客様が普段使い慣れているECサイトとは違い、追加やスキップなどの独自の動きがあるため、各つまずきポイントでの接客が必要だと感じていました。そのことから、UI/UX改善にも多くの投資を行ってきましたが、なかなか抜本的な解決には至りませんでした。
以上の課題を解決するため、CX改善ツールの導入を検討しましたが、これまでの自分自身の経験から、実現したい施策に対して「痒いところに手が届かない」と感じることが多く、今回の導入でもうまく使いこなせるか不安を抱えていました。
単純な接客を行うだけであれば私たちでも設定できるのですが、たとえば「要件を満たさずに次に進むボタンをクリックしたお客様」や「特定の商品のプラスボタンを押下したお客様」など、「このページでこういう挙動をしたら」といった細かな設定は専門的な技術が必要です。単純なGUIでは限界があり、エンジニアのサポートが不可欠だと感じていました。
このような経験から、CX改善ツールを完全に内製化するのは難しいと考えていました。その中で、Sprocketはマーケティング面だけでなく、技術的な伴走支援をしていただけるという点が、導入の大きな決め手となりました。
キリンビール株式会社 マーケティング部 事業創造室 DXチームリーダー 野崎 正道氏 |
菅岩氏:マーケティング面や技術的な伴走支援に加え、「お客様を中心に考える」という当社の方針と、「接客の質を上げていく」というSprocketの皆さまとの考え方が一致したことも、導入の大きな理由です。
また、最初は3ヶ月や半年で試してみようとしていましたが、実際に試させていただいて、施策の効果が明確に数字で見えることや、デジタルに詳しくないメンバーも積極的に活用できる点でも非常に良いと感じました。
――Sprocket導入後、各セグメントのお客様にどのようなアプローチを行い、ビジネス成果につなげられましたか。
菅岩氏:前述のとおり、コロナ禍以降はお客様1人あたりの注文量が減少傾向にありました。これは外食需要の回復などが影響しており、データからもお客様が離れていく様子が明らかでした。
そこで、追加注文時に少しディスカウントを提供する施策を戦略的に実施しました。価格面でのメリットを打ち出すことで「もう1本追加しよう」と思っていただき、この施策は非常に効果的でした。
具体的には、特価商品があるにも関わらず、通常価格の商品を購入される動きをされたお客様に、特価商品をおすすめする接客で、よりお得に感じてもらうような誘導をしました。効率的に追加注文の獲得につながり、稼働単価の前年比での成長が実現できました。効果的な接客でお客様自身に気づいていただき、購入につなげる導線をうまく作れたのは良かったです。
野崎氏:また、定期注文をスキップされているお客様には、「〇月〇日までならスキップ解除ができますよ」というお声がけをし、複雑な仕組みとなっているスキップの仕組みを、端的にお客様にお伝えするといった、セグメントごとに異なるアプローチを実施しています。
これにより、50%以上のスキップ解除改善率を実現でき、お客様の不安解消やサブスクリプション継続、売上増加につながりました。
2つ目は、システム改修に要する時間と労力です。Webサイトの改修には半年から1年程度かかることも珍しくなく、スピーディーな対応が困難でした。特に予約に関わるシステム改修では、安全性の担保や他システムへの影響確認など、さまざまなステップが必要となります。そのため、お客さまからのご要望にタイムリーに対応できない状況が続いていました。
さらに、定番商品を購入している方には、より定番商品をおすすめするシナリオや、既存のお客様への接客だけでなく、契約時の接客を強化する新規のお客様向けのシナリオなどもよい効果が出てきております。こうしたセグメントごとの課題に対して、PDCAサイクルを回しながら改善を進めています。
菅岩氏:まさにデータドリブンマーケティングですね。何が課題かを明確にし、それに基づいた企画をしっかり実行しました。まとめ買いのディスカウント施策も、Sprocketを導入しなければ実現できなかったと思います。家庭内での酒量が減っていることは分かっていたので、それに対する施策を打つことで、結果的に稼働単価が上がりました。
セグメントごとのクロスセルや注文の後押し |
会員登録の後押し |
――インスタントウィンやミッションプログラムについて教えてください。
野崎氏:サブスクリプションサービスはお客様が何もしなくてもビールが届くため、サイト訪問の理由が少ないという課題がありました。
我々としては、サイト訪問のきっかけを作り、お客様に訪問していただき、LTVを高めたいと考えていました。
この課題を解決するために、ゲーミフィケーションを取り入れ、お客様がマイページにアクセスしたくなる仕組みを作りました。具体的には「くじ(インスタントウィン)」を実装し、A賞にはグラスなど特別な景品、B賞・C賞にはクーポンが当たるなどの施策を行いました。
その結果、サイト訪問率が向上し、ページを訪れた後の回遊や購入にも良い影響が見られました。また、メールやLINEでこの施策を告知したところ、通常の新商品の販促メッセージに比べて、クリック率が約4倍になるなど高い効果が確認できました。
菅岩氏:実は以前からこの企画を実現したい構想はあったのですが、基幹システムを改修して実装しようとすると、多くの工数・予算が必要になるという課題がありました。
しかし、Sprocketを活用すればゲーミフィケーションもすぐに実現できると伺い、とても驚きました。「本当にできるのですか?」と何度も確認したことを覚えています。実際、1ヶ月ほどで実装することができました。
野崎氏:インスタントウィンがうまくいき、さらに、2025年から始めた「ENJOYチャレンジ」という会員プログラムでは、訪問だけでなく購入する理由や継続する理由を提供し、「これを達成するとこれがもらえる」という仕組みを構築しました。Sprocketの多大な協力により、簡単に運用できるシステムが設計され、私自身の少しの作業で新しいチャレンジをわずかな時間で追加できるようになっています。
2つの施策により、お客様がワクワク楽しみながらマイページを訪れたくなる仕組みができました。
インスタントウィンやミッションプログラム |
――Sprocket導入による組織への影響について教えてください。
野崎氏:これまでに100本以上のシナリオを実施し、多くのCX改善に貢献しています。社内では、組織としてのケイパビリティが大きく向上したと評価されています。これまで基幹システムの開発が必要と思っていたことも、「Sprocketならできるかもしれない」と考えられるようになりました。私のようなDX担当者だけでなく、デジタルに詳しくないメンバーからも「Sprocketでこういうことはできますか?」という声が多く上がるようになっています。
菅岩氏:CRMチームにいる各ビールブランドの担当者が、「サイト上でこういうことをやりたい」「商品を知ってもらうためにこういう施策をやりたい」といった要望を、Sprocketを通じて野崎に相談することが日常的になりました。これは大きな進歩だと思いますし、デジタルへの関心が高まった証拠だと思います。
さらに、きちんとセグメントごとに分析し、何が想定と違っていたのか、では次にどうするか、といった改善ができるようになりました。例えば、3ステップのメッセージバナーを表示している施策では、「3枚目はどれくらい見られているのか」といった点も、以前は正確に把握できていませんでしたが、今は可視化できるようになりました。こうした習慣が身についたことも大きな成果です。
野崎氏: また、マーケティング初心者にとっても、Sprocketは非常に役立っています。A/Bテストも簡単に実施できますし、アップリフトが明確に数字で見えることで、施策を実施する側も楽しさを感じています。自分の取り組みが数字として現れるのは大きなモチベーションになりますし、デジタルのハードルが大きく下がったのはSprocketのおかげだと思います。
さらに、カスタマーサクセスの皆さまの支援のおかげでお客様中心の仮説立てもできるので、「少しの文言や表示場所の違いでこんなに結果が変わるんだ」と新鮮な驚きがあるようです。すぐに結果が見えるので、Webマーケターとしての第一歩を踏み出すのにとても役立っています。
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――その他の成果について教えてください。
野崎氏:費用削減の観点でも大きな成果がありました。たとえば、サイトのカルーセルバナー運用をSprocketに切り替えたことで、簡単に運用できるようになり、大幅なコスト削減を実現できました。
菅岩氏:Sprocket導入前は、サイトの定期更新だけでも相当の費用がかかっていました。そのため、「この情報をこの人に伝えたい」と思っても、限られたスペースや決まったレイアウトの中では、十分に伝えることができませんでした。しかし、Sprocket導入後は伝えたい情報をお客様に伝えることができ、投資した費用を無駄にすることなく、活用することができました。
さらに、サイトのリニューアルの際にも、Sprocketで検証した結果をもとに、効果があった内容をページに反映することで、抜本的な改善につなげられるようになりました。これにより、不要な機能開発をせずに済み、運用もしやすくなりました。
――今後のチャレンジについて教えてください。
野崎氏:Sprocket導入時から課題として挙げているのが、基幹データの活用です。現在はWeb上のデータを収集し、それをもとに接客を行う限定的な使い方をしていますが、より精度の高い接客を実現するには、CDPからのデータ活用が不可欠です。ようやくその基盤が整ったので、これから本格的に取り組んでいく予定です。
また、SproAgent(スプロエージェント)という新しいツールについてもお話を伺っています。AIツールは一般的にブラックボックスになりがちですが、このツールは計算過程や理由がSQLやグラフで可視化されます。そのため、「なぜこのアウトプットになるのか」「どのような効果が期待できるのか」といった根拠が明確に示されます。まるでデータサイエンティストと会話しているような質の高い分析がAIで実現できると感じました。
菅岩氏:本質的なチャレンジは、サービスの価値を高め、お客様に納得して対価を支払っていただくこと、そしてお客様を増やし、利用者の満足度を高めて長く使っていただくことだと思います。そこをお客様中心に、Sprocketの皆さまと一緒にサービスのお客様接点を磨き上げていくことが私たちの挑戦です。
2027年以降は、さらに大きなビジョンを描いていきたいと考えています。現在、ホームタップは一部の限られた方にしかご利用いただいていませんが、将来的にはほとんどの世帯にホームタップがある世界を目指したいです。それが当たり前になる日を楽しみにしています。
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――Sprocketを検討している方へメッセージをお願いします。
野崎氏:特にアイデアはあるけれど、どう実現すればいいか悩んでいるマーケターの方には、Sprocketは最適なツール、パートナーだと思います。単にアイデアを形にするだけでなく、新しい視点からさらにブラッシュアップした提案を一緒に作り上げてくれる点がとても助かっています。
また新人マーケターや経験の浅い方にも、伴走しながらサポートしていただけるので、どんなマーケターにとっても使いやすいサービスだと感じています。
菅岩氏:サービスのWeb体験価値を高めたい方、単なる機能や数字の改善だけでなく、本当に使いやすいサービスを実現したい方におすすめしたいです。手間を省くというよりも、より良い体験を提供するという観点で、私はSprocketを評価しています。
――本日はありがとうございました。
キリン ホームタップが実現するデータドリブンな戦略的アプローチ
キリンビール株式会社が展開する家庭用ビールサーバーのサブスクリプションサービス「キリン ホームタップ」は、2017年のサービス開始以来、お客様の日常に特別な体験を提供し続けています。 本資料では、同社のデータドリブンマーケティングへの挑戦と成果を解説します。
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